ロシアで英イートン校や米エクセター・アカデミーに並ぶエリート校設立の動きが広まっている。プーチン大統領の意向のほか、クリミア半島併合をめぐる欧米との対立や、米大統領選への不正介入疑惑で、外国のエリート校に子どもを進学させていた富豪・富裕層が国内の教育環境整備を望んでいることが背景にあるようだ。
ロシアでは2014年以来、ズベルバンクのヘルマン・グレフ総裁夫妻、富豪のスレイマン・ケリモフ氏、ニキータ・ミシン氏などの投資家が、私立校135校を設立した。しかし、農業大手ロスアグロの創設者ヴァディム・モシュコヴィッチ氏のレトヴォ・スクールは、その中でも群を抜く。総投資額は2億米ドルで、このうち8,000万ドルが建設費。モスクワ郊外の学校敷地には、寄宿舎のほか、テニスコート、サッカー場、陸上競技場、小川、岸辺に森のある人造湖まで作る。今年9月に開校するが、年間授業料は約2万ドルと、英国の名門寄宿学校の半分。授業料が払えない生徒には、親の収入に応じて減免する。
学校運営では、英ウィンチェスター校や米モントゴメリー・ベル・アカデミー、シンガポールのラッフルズ・インスティテューション(RI)など、学ぶ環境の重要性をよく知っている専門家を招いて評議会を設置する。2020年に全5学年がそろうと、生徒数は1,100人、教員数は外国人60人を含めて160人となる。
モシュコヴィッチ氏によると、同校の特徴は「お金を積んでも入試の点数が悪ければ入れない」ことにある。誰の答案かわからない形で採点を行い、公正を保つ。というのも、「この学校を建てるのは金持ちのためではなく、ロシアが世界と競争できる力を養うため」だからだ。
実際、ロシアの生徒の能力は下降気味だ。国際数学オリンピック(IMO)では第1回大会から常に6位以内に入っていたが、2015年以降は7位以下に甘んじている。OECD学習到達度調査(PISA)でも72カ国中32位と中程度だ。
さて、プーチン大統領は富豪の教育投資を促すために昨年夏、テレビ電話でソチ冬季五輪跡地に設置されたシリウス教育センターの生徒と歓談し、この様子が放映された。教育センターでは数学や理科だけでなく、音楽やスポーツに秀でた生徒が1カ月間、無料で教育プログラムに参加できる。ある生徒に「怒りで攻撃的になったりしないか」と尋ねられた大統領は「頭脳明晰で教養がある人ほど穏やか(非攻撃的)になれるものだ」と答え、感情をコントロールするよう努めていると語った。
教養を身につければ穏やかになれるものなら、ぜひロシアの子どもたちの多くが教養を身につけて、ウクライナやシリアなどで国際舞台での「攻撃性」をやわらげてほしいものだが、どうだろう。