今月11日、モスクワの南東約70キロメートルで地方航空会社サラトフ航空のオルスク行旅客機が墜落し、71人が死亡した。これまでのところ、防氷装置のスイッチが切ってあったため気圧センサーが氷結して速度計が正しく機能せず、操縦ミスを招いたとみられている。しかし、ロシアでは事故率が比較的高く、航空業界の抱える問題が根本的な原因となっているようだ。
ロシアのフライト100万回当たりの事故数は2.89件と世界平均の1.93件を大きく上回る。欧州連合(EU)の0.53件と比べると、その差はさらに広がる。ロシアの航空専門家ヴァディム・ルカシェヴィチ氏は、遺族への慰謝料を増額する一方で、安全対策に本腰を入れない政府の姿勢が問題の根源と批判する。
今年ロシアで開かれるサッカー世界選手権大会(W杯)には、最大500万人の観客が訪れる。このうち、アエロフロート航空を40%、ロシア国鉄(RZD)を10%が利用し、残りの多くはUTエアやウラル、S7など民間航空大手に流れるとみられている。問題は、地方航空会社を使って国内を移動する場合だ。
これらの地方航空会社は資金力が弱く、様々なメーカーの古い航空機を運航する傾向にある。これが保守作業を複雑にしている。さらに、交換部品も中古だったり、重要部品を法律で定められた期間を大きく超えて使ったりという例が後を絶たない。ルカシェヴィチ氏は、「保守が十分なのは大手のみ」と警鐘を鳴らす。
もう一つの問題は人手不足だ。ロシアの操縦士賃金は安く、能力のある人は4倍稼げる中国など、外国へ転職する傾向が強い。アエロフロートでさえ人手不足を嘆いており、「9,000ユーロを超える月給は出せない」とため息をつく。過去数年で外国へ転職した人は300人、さらに数百人が転職を検討しているとみられる。
逆に言えば、小さな地方航空会社にいる操縦士は能力も低い。2013年のタタルスタン航空の墜落事故でも、操縦士が自動操縦装置のスイッチが切れていることに気付かず、着陸時にバランスを崩した機体を安定させようと試みたが失敗したとみられている。
いずれにせよ、ロシアを訪れたら地方の小さな航空会社は避けた方が安全なようだ。