難民の入国をコントロールしようと2015年にドイツで始まった国境検査だが、意外にも子犬や子猫の密輸発見にも役立っている。ドイツ国内で闇取引業者から保護された子犬は2016年に422匹、子猫は13匹、17年はそれぞれ641匹、80匹に上った。裏に暗躍するのはルーマニアやセルビア、ブルガリア、スロバキア、ポーランドなど東欧の「ペットマフィア」だ。
動物保護協会によると、理由の一つは利ざやの大きさにある。例えばポーランドで30ユーロで買える「純血種の子犬」は、ドイツで正規のブリーダーから買おうとすると犬種によって800~2,000ユーロする。闇業者の相場は200~600ユーロで、値段だけ見ればお得感が強い。また、見つかっても5,000~2,500ユーロの罰金で御免となるため、マフィアにとっては魅力的な事業モデルとなるわけだ。この結果、子犬の闇取引市場は推定4億ユーロという規模に成長している。
動物保護協会は、「発覚件数が増えたのは確かだが、それでも見つかるのは氷山の一角」と指摘する。このため、一般市民に実態を知らせて正規ルートから動物を入手するよう呼びかけるキャンペーンを実施している。
東欧の闇業者で飼われる動物は劣悪極まりない環境に置かれている。母犬・母猫は「産む道具」とされ、お日様も見られない檻の中で一生を過ごすことさえある。生まれた子どもが健康な体と心を育むには8週間以上、母親や兄弟姉妹と一緒にいなければならないが、西欧で売られる時期はそれよりずっと早い生後4~6週間だ。エサ・水不足による栄養失調、ボストンバッグなど狭いスペースに詰め込まれて運ばれるなどのトラウマ、健康管理の欠落による感染症・寄生虫など、問題を抱えていることがほとんどで、買った直後に健康を害して短命に終わる場合も多い。また、心の傷のせいで問題行動を起こして誰にも馴染めず一生を過ごすこともある。
保護協会はこれらの事実を踏まえて、闇業者による虐待を防ぐには「買わない」ことが一番と訴えている。最近はインターネット広告で売られることが多いが、かわいい写真や調子のいい売り口上にだまされないことが肝要だ。きちんとしたブリーダーをみつけるポイントは、◇1~2種類の血統に特化◇買う前に見学できる◇子犬・子猫の母親・兄弟姉妹もみられる◇住宅の広さや家族構成など、買い手側の環境を確認してから取引◇万が一、子犬・子猫がなじめなかったときには引き取ってもらえる――など。ドイツの場合、純血にこだわらなければ、地域の動物保護協会でもらい受けることもできる。