セルビア、ボスニア、マケドニアで病気にかかった場合にモノをいうのはずばり「お金」だ。公的医療では、検査を受けるにも長い待ち時間を余儀なくされる。財力のない普通の人々は重病にかかると「検査が先か、死ぬのが先か」という極限の状況に追い込まれるのだ。一方で、自由診療ではどんな検査も「3日以内」で受けられる。まさに「貧乏人は死ね」という状況だ。
セルビアを例にとると、平均手取り賃金が400ユーロほどなのに対し、民間医療保険料は20~数百ユーロに上る。このため、加入率は2%に過ぎない。
公的保険は強制加入だが、◇I型糖尿病患者のインスリンポンプの待ち時間が6年(ボスニア)◇リンパ腺がんを患う30歳女性は検査を「自由診療」で行うよう、公立病院で勧められた(セルビア)◇公的保険がきくはずの一般的な医薬品が病院にないため、患者が自費で購入(ボスニア)◇公的病院の予算が少なく、下半期には注射器も注射針も消毒薬もない(セルビア)◇がん病院に抗がん剤がない(ボスニア)――といった有様で、「何のために加入しているのか」というのが国民の本音だ。
公立病院でも自由診療患者を優先して入院させるケースが増え、汚職の原因にもなっている。西バルカン諸国で行われたさまざまなアンケート調査をみると、「汚職が蔓延している」職種として「交通警察官」の次に「医者」を挙げる人が多かった。
さらに問題なのは医者の流出だ。国内でも公立病院から自由診療病院に移る人が多いが、国外脱出組の数も無視できない。マケドニアでは昨年、新卒の医師220人のうち180人が国外でも通用する国際免許の発行を受けた。セルビアでは医師の4人に3人が国外移住を計画または検討している。賃金の高さも魅力だが、まともな治療ができる環境で働きたいというのも大きな動機なのではないだろうか。