ポーランド介護業界の人手不足が深刻化している。ワルシャワ郊外で老人ホームを経営するイヴォナ・シチェパニアクさんによると、5年前の開所時には簡単だったポーランド人の採用が、今では不可能な状況という。その理由は「出稼ぎ」だ。
体制転換から30年が経とうとしている現在でも、ポーランドの平均賃金は1,000ユーロ弱。看護師の初任給は税込みで600ユーロにしかならない。シチェパニアクさんは時給2.5ユーロを払っているが、ドイツでの待遇(1,300~2,200ユーロ)には遠く及ばない。
ポーランド人の看護師がシチェパニアクさんのところで働いていたのは開所の1年後まで。新卒で就職した2人は老人ホームで働きながらドイツ語を勉強し、ある程度マスターした時点でドイツへ行ってしまった。
ドイツではポーランド人看護師の評判がよく、2011年5月に欧州連合(EU)内でのポーランド人の労働規制が完全撤廃されるとポーランドから多くの人が移住した。英国やスウェーデンなどを含めると、EU加盟後にポーランドを出て行った看護師は2万人にも上るという。
出国の波はまだ収まっていない。ドイツ連邦統計局によると、同国の老人ホームや一般世帯で介護の仕事をするポーランド人は、すでに2013年の時点で7万6,000人と推定されていた。現在では数万人増えているとみていい。これが原因で、ポーランドの病院や老人ホームでは看護師不足が深刻化しているのだ。
ポーランドの看護師の平均年齢は51歳。28万人中5万5,000人が定年を間近に控える。新卒者数は年4,500人前後だが、3分の1は他業種で働くか、外国へ働きに行ってしまう。
ワルシャワの心臓外科医、ピョートル・ブルチンスキさんは今年初め、「最新の手術設備があっても、看護師がいなくて手術の数がこなせない」と警鐘を鳴らした。全国で10万人不足しているという見解だ。ウクライナなど外国から人材を招へいすることも考えられるが、現在、実際に働いているのは170人に過ぎない。
シチェパニアクさんの老人ホームで働いているポーランド人は今1人だけだ。介護の技能は十分だが、看護師の資格を持っていないため、国内にとどまっている。ほかの4人はウクライナ人。技能面でも人物面でも問題ないが、子どもを母国に残していることが多く、長年働く人材を見つけられないのが悩みの種という。