旧共産圏の国の中でも目覚ましい経済発展を遂げたチェコ。そんなチェコで、欧州連合(EU)離れが進んでいる。反動としてロシアに親近感を覚える人が増え、同国の立ち位置が微妙になってきた。
チェコは1968年のプラハの春、89年のビロード革命を通じて、ロシアからの独立を目指してきた。体制転換後もヴァツラフ・ハベル初代大統領らの尽力で、北大西洋条約機構(NATO)、EUに加盟するなど、着々と「西側の一員」としての地位を築いた。
モノづくりの伝統を生かした技術力も奏功し、チェコ経済は堅実に成長。現在も好景気で失業率2.4%と絶好調だ。
それにもかかわらず、チェコ人の気持ちの上ではEU離れが進んでいる。ユーロバロメーターの調べによると、EUの機関に対するチェコ人の信頼感は3分の1にも満たず、加盟国内でギリシャに次いで不信感が強い。それと同時に、ロシアを支持する声が広まっている。
その原因は大きく分けて3つある。まずは、多文化社会を「脅威」と感じる人が多く、民族共生を唱えるEUとの距離が生まれている事実だ。この点、「欧州の文化的アイデンティティー擁護」を強く打ち出すロシアのほうが共感できるというわけだ。
2つめは、イラク戦争、金融危機、移民問題など、EU・NATO内の意見がまとまらず、組織として機能しているのかという疑問が強まっている点だ。その延長として、親欧政策をとってきた政治エリートとの距離感も明確になっている。客観的にみれば、ビロード革命以来、チェコが様々な問題を改善してきたのは確かだが、その実績よりも国民の抱いていた期待のほうが大きく、結果として失望につながったといえる。
3つめは、自らが東と西の間に位置する「中欧」であるという意識がチェコ人の中に深く根付いていることにある。これが、「東」にも「西」にも属すことなく、「それぞれの良いところを取り入れることができる」という考えに結び付く。現在に当てはめてみると、意見の対立が続きすっきりしないEUよりも、旧社会主義体制下の「わかりやすい」社会に気持ちがなびいてしまう、ということになる。
これまでは表面化していないが、心理的な立ち位置が政治に影響を及ぼす可能性も出てきている。前回の選挙の結果、与党ANOは連立しても議会過半数を握れず、親ロの共産党の閣外協力に頼っている。このほかにも、やはり親ロシアの極右政党SPDが議会入りし、NATOへのチェコ軍派遣などの議案で連立政権に圧力をかけるといった事態が起きている。