反政府ナンバー~ルーマニア

政府与党・社会民主党(PSD)の主導する「汚職合法化」司法改革に国民がたびたび大きな抗議集会を開いているルーマニア。先月10日にはブカレストの10万人規模のデモで参加者と治安警察が衝突して多数のけが人が出たため、ニュースでご覧になった方もいらっしゃるだろう。

最近、これら国民の抗議スローガンになっているのが「Muie PSD」だ。「Muie」は罵倒表現で、強いて訳すとすれば英語の「Fuck」に近いという。「くたばれ社民党!」というところだろうか。以前の反政府デモでも参加者の掲げる旗などでこの表現を見かけることがあったが、この夏はTシャツや傘などあらゆるものに広がった。特に目立つのが車のナンバープレートだ。

というのも、この表現がスローガン化したきっかけがナンバープレートにあるのだ。震源地は、スウェーデンで運転手をして働くラズヴァン・ステファネスクさん。スウェーデンに移住したときに車を買おうと決意し、「高い車が買えたら、希望ナンバーをつけよう」と思ったという。

スウェーデンのナンバープレートは通常、アルファベットと数字3つずつの組み合わせだが、手数料を払うと自由な組み合わせで選べる。ステファネスクさんは夢がかなって、夏の休暇前にアウディ車を手に入れた。

40代半ばですらりと背が高く、物静かな彼は、決して政治的な人間ではないが、PSDのしていることには普段から我慢がならなかった。「PSDは国民、貧しい国民に嘘ばかりついている。ルーマニアに住んでいる友達は、子どもに映画をねだられても金がない。子どもにどう説明したらいいのか悩んでいる」とその心持を話す。ナンバーに反PSDを表す言葉を選ぼうと辞書まで引いて考えた結果が「Muie PSD」だった。

非合法なことはしたくなかったので、念のため、スウェーデン当局にルーマニアでもこのナンバーで走れるか、確かめてから取得した。夏の帰郷でも、入国時の国境検査では問題にされず無事だった。

ところがその後、帰郷中に9歳の息子と遊びに出かけたとき、パトカーに停められた。書類確認中、ナンバープレートを外すよう言われたが、「そうしなければならないなら、お巡りさんが外してください」と答えた。警官がナンバーを外しているところを録画して、帰宅後、ソーシャルメディアで公開したところ、野火のごとく広がり、「Muie PSD」が反政府の主要スローガンに昇格した。

さて、警察はステファネスクさんのナンバープレートを押収した理由について、ナンバーに「数字が含まれていなかった」のがいけなかった、と苦しい説明をした。スウェーデン運輸庁は「スウェーデンのナンバープレートは基本的に欧州内でも認められているが、最終的には各国の判断にゆだねられる」との立場を明らかにした。

また、同庁はルーマニアからの通知を受けてナンバーを失効処分にしたが、これについては「希望ナンバーに罵倒表現を用いることは禁じられているが、交付時にはわからなかった。今回、罵倒表現だということが判明したのでナンバーを取り消す」ことになったと説明している。

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