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2018/9/19

コーヒーブレイク

大統領ドキュメンタリー~ロシア

この記事の要約

この9月からロシア国営放送で新番組「モスクワ・クレムリン・プーチン」の放送が開始された。毎週日曜夜9時から1時間、プーチン大統領の「素顔」を伝えるもので、「慈愛に満ち、責任感にあふれ、元気はつらつ」な大統領の、「忙しく、 […]

この9月からロシア国営放送で新番組「モスクワ・クレムリン・プーチン」の放送が開始された。毎週日曜夜9時から1時間、プーチン大統領の「素顔」を伝えるもので、「慈愛に満ち、責任感にあふれ、元気はつらつ」な大統領の、「忙しく、困難で危険な日常」を紹介する。

2日の第1回放送では大統領の「短期休暇」を密着取材した。モンゴルと国境を接するトゥバ共和国のツンドラでは、「朝の体操代わりに」ショイグ国防相、ボルトニコフ連邦保安庁(FSB)長官、トゥバ共和国のカラオール政府議長(首長)を引き連れ8キロを歩いた。

ツンドラは「危なくないんですか」と心配するソロヴィヨフ司会者に、出演者のペスコフ大統領報道官は「もちろんです」としながらも、「熊はバカじゃないから大統領を見れば襲ってこない」とか、「用心深い山羊も大統領の前では逃げず、えさを食べ続けた」などと逸話を語り、イエス・キリストかお釈迦様かというような「偉大さ」をアピールした。このような話がどんどん出てくれば、そのうち聖人列伝に加わるかもしれない。

西シベリアのケメロボ州では鉱山を訪ねて労働者と対話した。「労働条件は大きく改善したけれど、国営住宅になかなか入れない」という悩みに「解決」を約束し、チビリョフ州知事に労働者の電話番号をメモさせた。

新学期に合わせて、ソチの巨大青少年センターで子どもたちと交流する姿も見せた。ソロヴィヨフ司会者が「大統領が子どもと話しているところを見れば、いや、子どもを見るまなざしだけでも、大統領が子どもを愛していることがわかる」とコメントすれば、ペスコフ大統領報道官は「子どもだけじゃなくて、もう、人間はすべて愛しているんですね」と強調。プーチン大統領を「非常に人間的な人間」と称賛し、レーニンが「最も人間的な人間」と称えられたソ連時代をほうふつさせた。

さて、ここで現実に戻ろう。すでにプーチン大統領で飽和気味な国営放送に、また「プーチン番組」が加えられたのはなぜだろうか。ロシア専門家は、年金受給年齢の引き上げを柱とする年金改革で人気がガタ落ちしているのが理由とみている。政府に近い世論調査機関によれば、支持率は年初の80%から、年金改革案が発表された6月には62%、8月までに47%まで低下した。与党「統一ロシア」の支持率も3月の大統領再選直後の55%から8月には37%に急落した。

番組では、女性の年金受給開始年齢の引き上げ幅を縮小すると発表した先月29日の大統領テレビ演説を引用した。下院議員に「大統領は重要な点をすべて自ら検討した」と言わせて、年金改革の影響を最小限にとどめようと努力する大統領の「人間性」をクローズアップした。

支持率回復に貢献するかどうかはまだわからないが、第1回放送の視聴率は18%。大統領にしてみれば手ごたえは十分かもしれない。

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