ルーマニアの若い夫婦が立ち上げたタイニーハウス事業が好調だ。タイニーハウスとは面積20平方メートルほどの小さな家。トレーラーで移動できる。小さいだけに価格は一般の住宅よりも安い。不動産バブルのはじけた北米から、ブームがじわじわと世界に広まっている。欧州では大都市を中心に住宅難が深刻化していることが、消費者の目を家のダウンサイジングに向けさせているようだ。
ルーマニアのタイニーハウス会社を運営するのは30代のサーカーチさん夫妻。二人とも建築家の資格を持つ。普段は町中の団地に住むが、週末や休みの日に子どもらと緑のあるところで過ごそうと、数年前に郊外で土地を買った。ここに家を建てるつもりだったが、この土地は建設禁止だったことに後から気が付いた。
そこで、トレーラーで移動できるタイニーハウスに目を付けた。これなら法律に違反せずに「家」を作ることができる。インターネットでみると値段は数万ユーロで自分らには手が出ない。ならば自作しようということになった。
2016年初めに職人の友人らと一緒に設計をはじめ、8か月後には実際に家が完成した。木を使った素朴なつくり。面積は20平方メートルだが、台所、リビング、仕事場、トイレ、シャワールームを備え、小幅の階段で上るロフトにはベッドがある。大人2人、子ども2人が住むには十分だ。
タイニーハウスを作ったのがとても楽しかったため、「これを仕事にしよう!」と「エコタイニーハウス」起業した。17年春の開業から1年半で25軒を納入した。価格は広さや装備により2万5,000~3万5,000ユーロ。ほとんどが西欧向けだ。重量は3.5トン、
注文から出来上がりまでは4~6週間。一軒一軒が顧客の希望に沿った特注のため、「難しいこともあるけれど、それが逆にこの仕事の魅力でもある」と夫のボトンド・サーカーチさんは言う。事業好調のおかげで正社員数は12人に増えた。
社名に「エコ」と入っていることについてサーカーチさんは、「ほとんどすべての材料が環境に配慮した、地域で調達できるもの」だと説明。「例えば材木は合法的に伐採されたものだけを使っている。一部では生態系を保全した森林から調達していることを示す「FSC認証材」を用いている」という。断熱材には麻繊維(ヘンプ)、塗料には亜麻仁油(あまにゆ)を利用する。
タイニーハウスは、定住タイプのミニハウス、マイクロハウスと同じように、住宅ローンを組まなくても手に入る持ち家という選択肢を開いた。借金のない自由さが長所なのはもちろんだが、サイズを小さくすることで自分に大事なものが何かを見直す機会にもなっている。たくさんモノを持たなくても、本当に大事なものだけに目を向け大切にすれば幸せになれるという新しい生き方につながっているようだ。