中央アジアのキルギス共和国は、ロシア語の地位が高いことで知られる。その事実は、ジェエンベコフ大統領が以前はロシア語教師だったことに象徴されるが、実際にはロシアに出稼ぎに出たときに言葉ができたほうが有利だという現実にも支えられている。その結果、ソ連崩壊後世代が大人になった現在もキルギスでは近隣の旧ソ連諸国に比べて、社会的地位の高い人に占めるロシア語話者の割合が大きい。
キルギスがソ連から独立した1991年には、政府・官僚の多くがロシア語だけで仕事をしていた。キルギス語が十分に使えない人もおり、政府はロシア語をキルギス語に続く第2の公用語に定めた。その結果、公的手続きの多くにロシア語が使われ続け、高校以上の学校のほとんどでもロシア語が授業言語であり続けた。子どもの高等教育・公務員就職を目指す親たちは、早くから子どもにロシア語を身に着けさせるように努力する――これがロシア語の地位を維持したのだ。
しかし、そんなキルギスに変化の兆しが訪れている。昨年11月に開かれたキルギスタンをテーマとする円卓会議では、キルギスにおけるロシア語の占めるべき位置が議題に上った。最近では野党議員48人がロシア語を公用語から外す国民投票を実施する法案を策定した。そして、もっと重要なことには、キルギス教育省が先月、高校以上の高等教育機関に対し、キルギス語に堪能な生徒・学生を優先するよう通達を出したのだ。ロシア語が公用語として残るか残らないかにかかわらず、1世代後にはキルギスの政府官僚はキルギス語話者となる。
ロシア語を公用語として残すかどうかは、治安やロシアとの外交関係にも影響を及ぼしかねない微妙な問題だ。モルドバ共和国は、ソ連からの独立過程でロシア語を公用語から外したが、スラブ系人口の多い東部が「沿ドニエストル共和国」として分離、事実上独立状態にある。ウクライナでロシア語を地方公用語から廃すると報じられたことで国内の対立が先鋭化し、現在も内戦が続いていることは周知の事実だ。
この点からも、キルギスの公用語国民投票は大きな意味を持つかもしれない。目立たないながらも注目に値するテーマだろう。