ロシアでは毎年7月最後の日曜日に「海軍の日」が祝われるが、今年は、初めて女性が海軍の乗組員として参加する話題でもちきりだ。法律改正で来年から正式に女性が海軍で船長になれるようになるのを前に、「女性解放」をアピールする政府の思惑があるようだ。
海軍の日のイベントに参加するのは、クリミア半島沖の監視に当たる小型パトロール船のアナ・ブリケズ船長と乗組員2人の合計3人だ。船長は当日、青空に向かい信号銃を撃つ役目を負う。
旧ソ連では女性の社会進出が奨励され、自然科学や工学系分野、管理職レベルでも西欧に比べて多くの女性が働いていた。しかし、1974年に発効した法律で女性は「過酷な肉体労働」を要する456の職業に就くことを禁じられてきた。今日まで、飛行エンジン修理、消火作業、下水道管洗浄、地下工事などに携わることはできない。海軍の船長もリストに含まれており、ブリケズ船長は正確に言うと訓練中の身だ。来年初めからは、海軍船長を含めて356の職業が女性に開かれることになっており、ブリケズ船長も晴れて正式な船長となる。
この動きを大きく後押ししたのは民間船舶の船長として働くスヴェトラーナ・メドヴェージェヴァさんだ。海軍で船長になれなかったのに納得せず、「女性差別だ」として裁判を起こした。5年の歳月の後、最高裁判所で勝訴した。
メドベージェヴァさんは法改正を正しい方向と認めたうえで、「海洋・船舶系の仕事を含め、女性に認められた職業で働いていても女性に対する差別がある」と指摘する。国民の注目する海軍の日に女性が参加することについては、それだけで問題が解決するわけではないが「基本的には歓迎すべきこと」と話す。
ブリケズ船長の場合、「海軍初の女性クルーを統率することになったとき、母も夫も息子も喜んでくれた」という。家族や親せき、友人・知人が男女関係なく本人のやりたいことを受け入れ、支えていく――このような事例を一つ一つ積み重なねることが、時間はかかるにせよ、本当に差別をなくしていく唯一の道となるのではないだろうか。