eスポーツで「観光立地」~ウクライナ

ウクライナの首都キエフの一等地にある4つ星ホテル「ドニプロ」。ゼレンスキー大統領が掲げる「不採算国営企業の民営化」の一環として、7月に3,400万ユーロで、とある不動産会社に売却された。この会社の名がほとんど知られていなかったため、「裏にロシア人がいてカジノに改築する」などとうわさされたが、その疑いが晴れ、「裏にいたのはウクライナ人で、改築目的はeスポーツホテル」ということが判明した。

買収の中心人物は、2009年にウクライナのeスポーツチーム「ナトゥス・ヴィンチェレ(Born to winの意)」を結成したオレクサンドル・コハノフスキ氏だ。キエフを「eスポーツのメッカ」にするため、まずはドニプロを世界初のプロ向けeスポーツ・ホテルにするという。各室でトレーニング環境を整えるほか、既に存在するウエルネス設備を利用して疲れをいやすリラックスゾーンを設ける。また、共同のトレーニング・ゾーンやエンターテイメント・ゾーン、小規模大会が開催できるステージ(観客定員200人)を整備する。

しかし、これはプロジェクトの柱の一つでしかない。「メッカ」にするには大きな大会を開催する能力が必要だからだ。このため、キエフに収容観客数1万人の多目的アリーナを建設し、大会を組織する地元企業を設立することも計画されている。

コハノフスキ氏によると、大規模な大会は年におよそ300回開かれている。インフラさえあれば、キエフでこの種の大会を年間12回開催できるとみる。1回の収益は100万米ドルほどで、経済的に無視できない存在となる。

eスポーツ大会を中継する東欧ネットチャンネル大手「メーンキャスト」の創業者の一人、ヴィタリ・ヴォロチャイ氏によると、ウクライナは世界上位10カ国に入るeスポーツの強豪。著名な対戦型ゲーム「カウンターストライク」の世界チャンピオン、オレクサンドル・コスタリェフ(ハンドルネーム:s1mple)もウクライナ人だ。「ウクライナには世界クラスの選手もゲーム開発者もいる。人口30万人のクラクフ(ポーランド)がeスポーツ大会で年間10万人の訪問者を集められるなら、キエフにはもっとたくさんの人が来る」と自信を示す。

ゲーム産業の売上規模は年々成長し、5年後には映画、音楽、スポーツ業界の合計を上回るといわれる。eスポーツ業界に限っても、今年の売上高はすでに10億ドルを超えた。これを追い風に、キエフが「メッカ」に転身できるか――面白い話だ。

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