ボルシチの本場は?~ウクライナとロシア

ウクライナとロシアが一風変わった「対決」を繰り広げている。今回の焦点は天然ガスでも領地でも停戦合意でもなく、「ボルシチ」だ。

そもそもの始まりは、昨年5月にロシア政府がツイッターで「最も有名なロシア料理の一つ」と銘打ってボルシチのレシピを紹介したことにある。これがウクライナ人の神経を逆なでした。というのも、彼らにとってはボルシチはウクライナ料理そのものだからだ。

ロシアの主張に対抗して、ウクライナ文化省は先月、ボルシチを国の無形文化財に指定した。来年3月には国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)に無形文化遺産への登録を申請する予定だ。

本当のところ、ボルシチの起源は確実にはわかっていない。歴史家によれば、後にウクライナ、ロシア、ベラルーシに分かれるキエフ大公国で中世に生まれたと推定される。

しかし、ウクライナ人は、◇ボルシチが1718年に東部ハルキウで記された文献で初めて言及された◇ロシア、ソ連の文学でも「ウクライナ料理」として登場する――として「ウクライナ起源説」を主張する。

ロシア政府系の『ロシア新聞』はこれらの動きについて「根菜をベースにした煮込み料理は欧州各地に存在する」、「ウクライナは話題を作りたいだけ」とすまし顔だ。

どこが起源であろうと、今では東欧圏の多くの国でボルシチが家庭料理になっているのは否めない。ウクライナの非政府団体(NGO)「ウクライナ文化研究所」が全国のボルシチを調査したところ、国内でさえ、バリエーションの異なるさまざまな「ご当地ボルシチ」があることが鮮明となった。

ベラルーシ国境近くで土地の古老が語るボルシチは、伝統的に火焔菜(ビーツ)とサワークラウトを使うが、はちみつで味付けるのが独特だ。リヴィウでは最近、ウイスキーを入れるようになってきた。北西部のヴォルィーニ地方ではオス豚の血を混ぜる。

一方、ロシアのボルシチは、ウクライナと違ってベーコンやジャガイモなしであることが多いようだ。

果たして、ボルシチが「ウクライナ起源」と認定されるとは思えない。だが、ウクライナ人にしてみればユネスコへの申請で、少なくとも外国でボルシチがロシアだけの料理ではないことを知らしめたいというところだろう。

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