ルーマニア正教会の洗礼儀式で先月1日に生後6週間の乳児が死亡した事件が、国内に波紋を広げている。正教会では頭に水をたらす「滴礼」ではなく、全身を洗礼槽に沈める「浸礼」儀式が行われる。赤ちゃんは3度、頭まで聖水に沈められ心停止し、病院に運ばれたが甲斐なく亡くなった。解剖の結果、肺に110ミリリットルの液体が溜まっていたことが分かった。洗礼を行った司祭は過失致死罪容疑で検察当局の捜査を受けている。
痛ましい話だが、今回のような事故が初めてではないというからもっと驚く。現地メディアによると、過去数年間で少なくとも2人が死亡し、2人が重篤な呼吸困難で治療を受けたことが分かっている。
正教会内でも信者の間でも、事故を受けて「滴礼」に移行すべきかどうかで意見が真っ二つに分かれた。しかし、正教会は25日の会議で「浸礼続行」を決めた。強硬派に軍配が上がった形だが、その背景には、正教徒信者が教会にあくまで忠誠だということがある。
ルーマニア人口の86%は正教徒だ。信者は洗礼や葬式、ミサで多くの「寄付金」を払わなければならないが、教会への信頼は厚く、西欧のように教会を「脱退」する人はほとんどいない。このため、教会が信者から「正しいと認められている」と判断し、旧態依然の決まりをそのまま受け継ぐことにつながっている。例えば、女性は分娩後40日間、「穢れ」がとれるまで教会に入れない、という規則が今でも生きている。
一方、洗礼で死亡者が出るのは正教会とて望むところではない。このため、クルージュ・ナポカの大学では、将来聖職者になる神学の学生に人形を使った「洗礼実習」を課している。教会はまた、今回の事故で司祭に改めて「慎重に儀式を行うよう」指示もした。さらに、新しいところでは、洗礼前に小児科医の「お墨付き」をもらうよう親に呼びかけることにした。
あるベテランの小児科医はこれについて、「洗礼のことで相談を受けたことは、親からも司祭からも一切ない」と断ったうえで、「未熟児の浸礼は勧めない」と警告する。潜水反射が未発達で水を飲んでしまう危険があるためだ。また、直前に授乳するのも、お乳が逆流して気道に入ってしまう可能性があるため避けるべきという。