カザフITセクター、政府支援で急成長

●ガブテックやスマートシティに関する分野が有望

●公共サービスの90%以上がオンライン化されている

カザフスタンのIT産業が急成長している。高い能力を持つITエンジニアを安価に雇用できるほか、政府がデジタル・ハブや経済特区を通してIT産業の成長を積極的に後押ししていることなどが背景にある。特に政府部門のデジタル化などで実績を上げており、関連するソフトウエア製品などの輸出増が顕著だ。一方、国外での同国製品の認知度はまだ低く、さらなる成長の余地があるとみられている。

■政府のイニシアチブによりエコシステムが成長

政府は2018年に産業イニシアチブの「デジタルカザフスタンプログラム」を立ち上げ、テック系企業を支援するためのハブを複数開設した。その1つ、「アスタナ・ハブ」を併設するアスタナ国際金融センター(AIFC)のコクツシェフ最高経営責任者(CEO)によると、同国のIT部門のエコシステム(循環経済圏)は着実に育っている。特に目につくのは行政サービスのデジタル化を図る「ガブテック(GovTech)」や、スマートシティ、フィンテックといった分野の成長だ。

同氏によると、政府はIT企業に対し資金面を含む支援を活発に行っている。大規模なものは行政に関連するITプロジェクトで、政府部門のIT化は「デジタルカザフスタンプログラム」の下で行われている。同プログラムはデジタル技術の活用による国民の生活水準向上が目的となる。すでに成果が表れており、公共サービスの90%以上がオンライン化され、1,070万人以上に利用されている。

■テックハブの入居企業には税優遇を適用

アスタナ・ハブは民間企業向けのIT製品を開発するためのプラットフォームとしても機能している。現在の入居企業数は558社。開設から2年半で入居企業の売上高は合計1,660億テンゲ(3億8,300万ドル)、集まった資金の総額は1億1,170万ドルに達した。入居企業には減税などの優遇措置が適用されており、税制優遇措置の総額は3,440万ドルに上る。

同国のIT企業数は約1万。政府は2025年までにIT製品の輸出を5億ドルまで引き上げるとともに、高度な技能を持つIT専門家を10万人育成する予定だ。

同国では人材の獲得と市場参入が比較的容易だ。IT市場は成熟していないため競合が少なく、サービスや技術の開発からテスト、製品化まで一貫して行える機会が多い。またエンジニアの能力が高いのも強みで、ロシア版グーグルに相当するヤンデックスの創業者もカザフスタン出身だ。

農業にデジタル技術を活用するアグリテック・サービスを手掛けるエギスティック(EGISTIC)のケリムクロフCEOも、IT産業の成長の理由として政府の支援を挙げる。同社は経済特区の「アスタナ・テクノポリス」に入居し、税の優遇を受けている。政府の後押しのほか、プログラマーが勤勉で給与の要求水準がそれほど高くないのもメリットだ。

■国外市場のニーズに柔軟に対応し、輸出が急激に増加

アスタナ・ハブによると、同国のスタートアップによる製品やサービスの輸出は急激に伸びている。2020年の輸出額が3,360万ドルだったのに対し、今年1-9月期はすでに1億1,730万ドルまで増加した。欧米や東南アジア、CIS諸国、バルト諸国の市場ニーズに合わせて作成されたIT製品の広範なカタログや、同ハブとロシアの通信大手MTS、ヤンデックス、ウェブサービスのメール・ル、中国の通信機器大手華為技術(ファーウェイ)との協力関係もその成長を後押しする。

AIFCのコクトゥシェフ氏は、現在同国はオーダー開発したソフトウエア製品を輸出しているが、今後は拡張性のあるサービスやアウトソーシング、独自技術を使った製品を輸出することになるとみる。輸出されるのは主に同国で実証済みのガブテックやスマートシティに関するものとなる見通しだ。

コクトゥシェフ氏は、カザフスタンの企業は国内で技術やビジネスモデル、専門性を磨いているのに加え、政府部門や公益部門に関連した事業を展開しており、国外の市場にも対応できる製品を作っていると話す。また同国にはスタートアップ企業がサービスのテストや国内外の大企業と協業する機会があるほか、近隣のロシアや中国に参入することも可能だ。

■企業の内向き志向や、国外での知名度の低さが課題

一方で同国企業の外国市場への進出には課題も伴う。医療系IT企業のセレブラ(Cerebra)のアイトゥアロバ氏は、医療データを扱うソフトウエアの場合、進出先の国ごとに認証を得る必要があると特有の難しさを指摘する。

アスタナ・ハブのアブサメット氏は、同国のIT系スタートアップが国内市場に焦点を当てていることが問題だと述べ、AIFCのプログラムを通して創業時から海外に目を向けることの重要性を訴えていると話す。

同氏はまた、国外進出に際しての最大の課題は同国のIT製品の認知度が低いことだが、その問題の克服には時間がかかると述べた。(1KZT=0.26JPY)