リンロンタイヤの人権問題、政府は解明に及び腰~セルビア

セルビア北部の山東玲瓏(リンロンタイヤ)工場建設現場から、ベトナム人出稼ぎ労働者がSOSを送っている。今年5月に母国の職業あっせん業者を通してセルビアにやってきたが、1カ月分の賃金しか支給されていない。そして、暖房のない倉庫でマットレスもないベッドをあてがわれ、腹を空かせて震えているのだ。その数は実に500人。「宿舎」にはトイレが2つしかなく、温水も出ない。

現地の人権保護団体ズレニャニンスカ・アクチヤのミソ・ジヴァノフさんによると、労働環境の悪さに帰国を考える人も多い。しかし、契約満了前に帰るときには「旅費は自腹」とされている。また、中国人の雇用者に「労働・滞在許可手続きのため」パスポートなどの公的書類を預けたきり戻って来ていないことでさらにハードルが高くなっている。セルビアにはベトナムの在外公館もない。地元当局からは何の支援も受けられず、状況は深刻化している。

米AP通信の取材に対し、労働者の一人は「抗議のために100人ぐらいでストをしたが、何も変わらないばかりか、参加者の何人かが解雇された」と話す。

リンロンタイヤ側はAP通信に対しコメントを拒否した。現地メディアに対しては、リンロンが直接雇用したわけではなく、労働者が困窮しているのであれば「下請け業者とベトナムのあっせん業者の責任」と主張した。労働時間に応じて賃金を支払っているとして、労働者の生活環境は「それほど悪くないはずだ」という立場だ。そのうえで、パスポートなどの書類は返却すると約束した。

中国企業が多く進出するセルビアは、中国にとって欧州における勢力拡大・投資戦略でカギを握る国の一つ。進出している中国企業がセルビアの環境保護法および労働法に違反しているという報告もあるが、企業側はだんまりを決め込み、真偽が明らかにならない。

セルビア当局にも究明しようという気迫は感じられない。リンロンの工事現場における問題が公になってから数日後、ようやく政府関係者が「非人間的」な環境に反対する旨を公言したものの、中国側に責任はないという論調に終始している。

アナ・ブルナビッチ首相(進歩党)は報道について、「中国の投資に反対する者がリンロン工場を攻撃している」可能性も排除できないとし、間接的に西欧諸国が批判の背後にいるという見方を示した。アレクサンダル・ブチッチ大統領も労働管理局の職員を現地に派遣したと発表した場で、「どうしろというんだ。9億米ドルの投資を取りやめろというのか?」などと発言し、初めに投資ありきという姿勢だ。

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