「自動車大国」スロバキア、電動化への対応迫られる

●同国は対人口比での自動車生産台数が世界一位

●電動化による雇用喪失を避けるためEV産業の基盤拡大を目指す

人口540万人のスロバキアは対人口比での自動車生産台数が世界一位の国だ。だが、欧州連合(EU)の電動車(EV)シフトに伴う内燃エンジン車の生産停止により雇用が失われる危機にも直面している。政府は完全電気自動車(BEV)に対する8,000ユーロの購入補助金や、充電インフラ整備に向けた数百万ドル規模の投資などを通じてEVの普及拡大を後押し、関連する産業により多くの生産事業を呼び込みたい意向だ。

同国の2021年の自動車生産台数は約100万台。同業界の国内総生産(GDP)への貢献度は約13%と、自動車大国ドイツの3倍だ。製品は主に欧州市場向けで、輸出全体の33%を占めている。

欧州連合(EU)はガソリン車など内燃エンジンの新車販売を2035年までに事実上禁止することを決めている。ハイブリッド車(HV)も対象となるため、同年以降は実質的にBEVのみが新車販売できることになる。

内燃エンジン車に比べて部品数が限られるEVは製造工程も少なく、最終的に工場の人員も少なく済む。スロバキアのシンクタンク、Globsecの2020年の調査によると、EVシフトの影響は最悪の場合、GDPを10%押し下げる可能性がある。一方、最良のケースでは最大8,000人の雇用を創出するが、バッテリーなどの主要部品を国内で製造することが前提となる。

スロバキアで量産化された初のBEVは独フォルクスワーゲン(VW)の2013年の小型車「e-up」だ。ブラチスラバ工場からは2021年に約4万1,500台が出荷された。経済社会学研究所(ブラチスラバ)のラドバン・ドゥラナ氏は、「仮にVWがBEVを独国内で生産する決定を下した場合、スロバキアに選択の余地はない」と話す。同社のBEV「ID.3」と「ID.4」は現在、独ツヴィッカウ工場が生産しており、「ID.3」に関してはヴォルフスブルク工場でも生産を行うことが決定済みだ。また「e-up」についてもバッテリーはブラウンシュヴァイクから、電気モーターはカッセルから供給されている。

スロバキアの立地競争力の弱まりも無視できない。同研究所のヴラヒンスキー氏は以前、「隣国(ハンガリー、チェコ、ポーランド)も税制、電子政府、汚職対策などで大きな進歩を遂げている。15~20年前のスロバキアが持っていた、労働力の豊富さ、人件費の低さといった強みの多くが、すでに失われている」と説明していた。

その中で、昨年夏にボルボ・カーズが発表した東部のコシツェにEVの専用工場を建設する計画は大きな期待を集めている。雇用面だけでなく、国内西部と工業化が遅れている東部との間の経済格差を埋めることにもつながるためだ。投資額12億ユーロのうち20%を公的機関が拠出するとされる。

同国のEV産業を支えるうえでもう一つの重要なプレーヤーが、新興バッテリーメーカーのイノバット(InoBat)だ。同社はブラチスラバ近郊のヴォデラディに工場と研究開発(R&D)センターを持つほか、セルビアと米インディアナ州などにギガファクトリーを設置する計画を進めている。ヴォデラディ工場では間もなく、生産能力45メガワット時(MWh)のパイロット生産ラインが稼働する予定。バスやスポーツカー、航空機など特別な要件に対応するオーダーメードのバッテリー生産拠点として整備する計画だ。すでに、電動垂直離着陸(eVTOL)機を開発する独リリウムなどから受注があり、2030年までに5億ユーロの製品を出荷することになっているという。

イノバット創業者兼社長のボチェク氏は、「狭い範囲に多くの自動車メーカーが集まるスロバキアでバッテリー事業を始めるのは論理的な決定だった」と述べる。ヴォデラディの拠点からジャガー・ランドローバー(JLR)とステランティスの工場まではわずか10分の距離にあるほか、半径約402キロ内に合計9社のメーカーがひしめいている。

前出のドゥラナ氏はしかしながら、イノバットの事業が成功するかどうか見守らなければならないと慎重だ。スロバキアが今後も自動車産業に依存し続けるのかも検討する必要があるとしている。

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