カナダと投資裁判制度導入で合意、年内に協定調印へ

欧州委員会は2月29日、EUとカナダの包括的経済貿易協定(CETA)について、投資をめぐる企業と国家の間の紛争を処理する二審制の裁判制度を導入することで合意したと発表した。双方は2014年に協定案の内容で基本合意していたが、投資保護規定をめぐり、環太平洋経済連携協定(TPP)などに盛り込まれている「投資家対国家の紛争解決(ISDS)」条項に代わる新たな制度として、EU側が投資裁判制度の導入を提案していた。EUとカナダは16年中にCETAに調印し、承認手続きを経て17年の発効を目指す。

投資裁判制度はEU・米間の環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)交渉を進める中で、欧州委員会がISDSの代替案として考案した制度。ISDS条項は投資先の法律や制度が変更されたことで外国企業が損害を受けた場合、その企業が当該国を相手に中立的な国際機関に仲裁を申し入れ、制度の廃止や賠償を請求する権利を認める規定。海外で活動する企業にとってメリットがある反面、国家の規制権限が制限される側面もあるため、EU内では同条項が導入された場合、EU独自のルールや基準が無効と判断されるとの懸念が広がり、TTIP交渉は暗礁に乗り上げた。

欧州委は事態打開に向け、昨年9月に「公正で透明性の高い」紛争解決の新たなアプローチを提案した。ISDSのメカニズムでは事案ごとに仲裁人が選定され、当事者は裁定に対して不服申立てを行うことはできないのに対し、新制度では二審制を導入し、紛争当事者ではなく、EUおよび相手国と第3国によって選ばれた裁判官が常駐する「一審裁判所」と「控訴裁判所」を創設。国際司法裁判所の裁判官や、世界貿易機関(WTO)紛争処理上級委員会の委員などと同等の高度な専門知識を持つ裁判官が紛争解決にあたる仕組みだ。

EUは昨年12月に署名したベトナムとの自由貿易協定(FTA)に投資裁判制度を盛り込むことで合意しており、カナダとの合意が2例目。EUはCETAをTTIPのモデルと位置づけており、今回の合意を機に、米国に同制度の受け入れを迫るものとみられる。EUはまた、日本との経済連携協定(EPA)交渉でも投資裁判制度の導入を提案しており、ISDSが望ましいとして難色を示す日本への圧力を強める公算が大きい。

EUとカナダは2009年10月にCETA交渉を開始した。EUにとってカナダは12番目、カナダにとってEUは米国に次ぐ2番目の貿易相手で、CETAはEUが主要8カ国(G8)と結ぶ初のFTAとなる。CETAが発効すれば99%以上の貿易品目で関税が撤廃され、欧州委はFTAによってEU・カナダ間の貿易額が23%(約260億ユーロ)増加し、EUの域内総生産(GDP)も年間120億ユーロ拡大すると試算している。

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