原発投資に最大7600億ユーロ、欧州委が50年までの必要額算定

欧州委員会は4日、EU域内の原子力利用に関する報告書を公表した。気候変動対策や雇用などの観点から、原子力を「2050年までのエネルギーミックスの重要な要素」と位置づけたうえで、老朽化が進む域内の原子力発電所を安全に運用するため、同年までに最大7,600億ユーロの投資が必要になるとの見通しを明らかにした。

「原子力説明プログラム(Nuclear Illustrative Programme)」と呼ばれる報告書が公表されたのは、2011年3月の東京電力福島第1原発事故以降で初めて。欧州委は同事故を受けた安全基準の厳格化を踏まえ、加盟国や原発事業者から提出されたデータなどをもとに、原子力利用全般に必要な投資額を見積もった。

報告書によると、現在EU域内で稼働している原子炉は14カ国の計129基。域内のエネルギー需要の約3分の1を賄っているが、運転開始から30年以上経過している原子炉も多く、全体として老朽化が進んでいる。福島第1原発の事故を受けて強化された安全基準を満たして安全に運用するには今後、多くの原発で建て替えや設備を更新しなければならず、50年までに域内全体で6,500億~7,600億ユーロの投資が必要になると試算している。

必要投資額の内訳をみると、原発の新設費用が3,500億~4,500億ユーロと全体の半分以上を占めている。報告書によると、運転期間を延長するなどの措置が講じられない場合、既存原発の90%が30年までに耐用年数を超えるという。一方、EU内では15年10月時点で89基の原発が老朽化により運転を停止しているが、廃炉作業が完了したのは3基にとどまっている(いずれもドイツ)。報告書は50年までに廃炉に1,230億ユーロ、使用済み核燃料や放射性廃棄物の管理に1,300億ユーロが必要になるとの試算を示した。さらに既存の原発の維持・更新にも450億~500億ユーロの投資が必要と見積もった。

ドイツは福島の事故を受け、22年までに段階的に原発を廃止する方針を表明した。一方、英国は25年までに石炭火力発電を廃止し、原子力の比重を高める政策を打ち出している。報告書によると、域内10カ国で原発の新設計画が決定しており、フィンランド、フランス、スロバキアでは計4基の建設が進められている。

欧州委のアリアス=カニェテ委員(気候行動・エネルギー担当)は「福島第1原発の事故から5年が経過し、欧州は多くのことを学んだ。各国が個別に対応するのではなく、欧州が一体となって最も安全な原発の利用方法を共有することで、核燃料サイクル全般にわたって財政面でも安定的な運用が可能になる」と強調した。

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