中東などから大量の難民や移民が欧州に押し寄せている問題を受け、欧州委員会は6日、EU域内における難民申請のルールを定めた「ダブリン規則」の見直し案を発表した。難民らが最初に到着した国で難民審査を行うよう義務づけた現行制度を改め、難民流入の玄関口になっているギリシャなどの負担を軽減するのが狙い。ただ、東欧諸国など難民の受け入れに消極的な国の反発は必至で、実現に向けた協議は難航が予想される。
1977年に発効したダブリン規則では、難民希望者が最初に到着した加盟国が保護申請を受け付ける決まりになっており、申請せずに別の加盟国に移動した場合も最初の到着国に送還される。しかし、シリアなどからの難民や移民が殺到したギリシャやイタリアでは対応が追いつかず、多くの難民らが必要な審査を受けずに最終目的地のドイツや北欧などに向かう事態が生じて現行制度は事実上、機能不全に陥っている。
欧州委のティメルマンス副委員長は声明で「難民危機はEUの共通難民政策の弱点を浮き彫りにした。現行の難民保護制度を見直し、早急に持続可能なシステムを構築しなければならない」と強調。EU域外と国境を接する一部の国に負担が集中している現状を改善するため、加盟国が相応の責任を分担する必要があると指摘した。
欧州委は今回、ダブリン規則の改正に向けて2つの案を提示した。1つ目は難民らが最初に到着した国が難民審査を行う現行システムを原則として維持したうえで、難民の流入が急増するなどの非常時には加盟国が保護申請の処理を分担するという内容。2つ目は最初に到着した国が責任を持つシステム自体を廃止し、経済規模や難民の受け入れ能力などに応じて加盟国が難民申請者への対応を分担する新たな制度に移行する案だ。欧州委はさらに長期的な課題として、難民申請の受け付けを国ごとではなく、EUレベルで一元的に処理する仕組みを構築するとともに、域内で難民の認定基準を統一し、申請した国によって対応に差が出ないようにすることなどを挙げた。
見直し案にはこのほか、難民保護に関する加盟国間の実務協力を促進する目的で設置された「欧州庇護支援事務所(EASO)」の権限を拡大し、ダブリン規則改正後の難民申請者の加盟国への分担や、加盟国が難民保護に関する共通ルールを遵守しているか監視・評価などを委ねることも盛り込んだ。
欧州委は見直し案に対する加盟国などの意見を踏まえ、夏までに正式な法案をまとめる方針を示している。
一方、EUとトルコが3月に合意した欧州への難民流入抑制に向けた連携策に基づき、トルコからギリシャに密航した「不法移民」の強制送還が4日始まった。第1陣として、3月20日以降にギリシャに不法入国したパキスタンやアフガニスタンなどの出身者200人余りがトルコ西部のディキリに到着。指紋採取などの手続きが行われた。一方、先月の合意に基づき、トルコ国内に滞在していたシリア難民78人が定住のためドイツなどに送られた。
ギリシャではトルコへの送還を望まない移民らによる難民保護申請が殺到し、4日以降、送還の実施が見送られていた。トルコへの難民送還をめぐり、国連機関や人権団体などから批判の声が上がるなか、8日には送還が再開され、パキスタン人ら124人がディキリに到着した。