24日の英国国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利したことを受け、オーストリアのエルステ・グループは同国の離脱が中東欧諸国へ与える影響について、リポートを発表した。対英取引の減少などがもたらす直接的な影響は限定的だが、ユーロ圏の景気減速による間接的な影響が最も懸念される。
今年と来年の経済成長率は、国により0.2~0.6ポイント押し下げられる見通しだ。エルステでは中東欧成長見通しを現行の3.1%から2.5%強へ引き下げることを検討中。
中東欧地域の対英輸出は輸出全体の約4.4%で、ドイツ(23%)などに比べると小さい。国内総生産(GDP)に占める対英輸出の比率
が多いのはチェコ(4.05%)、スロバキア(3.55%)、ハンガリー(3.19%)となっている。英国からの投資が比較的多いハンガリーは最悪の場合、GDPが0.9ポイント減少する。
英国によるEUへの拠出金がなくなることで、助成配分の大きいハンガリー、ポーランド、ルーマニアの受取額が少なくなることは考えられるが、影響は限定的なものにとどまる。
証券市場は、金融機関や投資会社の集中するロンドンからの資金供給が減る恐れがあるが、短期的なものにとどまる。一方で英国・中東欧諸国間の直接投資は長期的に減る可能性がある。
通貨安は、2008~09年のリーマンショック時ほど極端には進まない。中東欧通貨の現行相場はおおむね適切で、調整の必要が小さいからだ。また、各国中央銀行も万一の場合には介入する準備があり、この点からも大きな混乱はないと予想できる。
国民投票では「人の移動の自由」が大きな争点の一つだった。英国にはハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキアから働きに出ている人が多くいる。これらの人々には社会保障カットなどの影響が出るかもしれないが、失職の可能性は小さい。
現時点では英国離脱後の同国とEUの関係がはっきりせず、詳細な予想は難しい。ただ、スイスやノルウェーのような緊密な関係で合意できれば、離脱による変化は小さい。一方で、英国が一般の世界貿易機関(WTO)と同じ扱いを受けるようになれば、中東欧諸国への影響は深刻なものとなる。