EUのモゲリーニ外相(外交安全保障上級代表)と欧州委員会のハーン委員(欧州近隣政策・拡大交渉担当)は9日、トルコの首都アンカラで同国のチャブシオール外相およびチェリクEU担当相と会談し、トルコのEU加盟交渉を加速させることや、難民抑制策での協力関係を強化することなどで一致した。トルコ政府が7月のクーデター未遂後に大規模な粛清やメディア弾圧を進めたことで、EU内ではトルコのEU加盟交渉を打ち切るべきだといった意見が出る一方、トルコ側でも難民対策での合意を破棄する可能性を示唆するなど、双方の関係は急速に悪化していたが、ひとまず対立の激化は回避された。
EU高官がトルコを訪問したのはクーデター未遂以降、今回が初めて。モゲリーニ外相は会談後の共同記者会見で、トルコのEU加盟交渉について「新たな章」を開かなければならないとの認識で一致したと説明。EU域内へのビザなし渡航についても早期実現に向けて話し合いを進めていると強調した。
一方、トルコのチャブシオール外相は「多くの課題について共通理解が得られた。双方が協力してあらゆる問題を解決していかなければならない」と発言。難民抑制策での協力維持を示唆したうえで、ビザ免除の実現に向けて「明確な行程表」を策定する必要があると指摘した。
トルコのEU加盟交渉は2005年10月にスタートしたが、EU側はトルコ国内の少数民族クルド人に対する人権抑圧などを問題視し、交渉は長く足踏み状態が続いていた。しかし、今年3月の首脳会議でEUは新たにギリシャに密航した不法移民らをトルコに強制送還する見返りとして、トルコのEU加盟交渉を加速させることを約束。昨年12月に経済通貨政策の分野で協議入りしたのに続き、6月には財務・予算規定に関する交渉を開始。35の交渉分野のうち、交渉入りしたのは16分野となった(交渉完了はこのうち1分野のみ)。
EU内では強権的な統治手法を強めるエルドアン政権に対する懸念が広がっており、オーストリアのケルン首相は先月初め、メディアとのインタビューでトルコのEU加盟交渉を打ち切るべきだと発言。今月16日のEU首脳会議で交渉中止を提案する考えを示していた。一方、トルコ側ではチャブシオール外相が先月半ば、10月までにビザ免除が実現しなければ、難民対策でのEUとの合意を破棄する可能性があると警告していた。