独照明大手オスラム(ミュンヘン)の買収に向けて中国資本が動いているもようだ。9月30日付『ハンデルスブラット(HB)』紙が製造業界と中国の金融業界、およびM&Aコンサルタントの情報として報じたもので、すでに複数の中国企業が筆頭株主の独シーメンスと接触しているという。ドイツでは産業ロボット大手のクーカが中国家電大手の美的集団に買収されたことを受けて、中国資本による自国ハイテク企業の子会社化が今後、急増し産業競争力が低下するとの懸念が強まっており、政府は法規制の強化を検討しているという。報道内容に対しシーメンスはコメントを控え、オスラムも「既存・新規の投資家とは常に話し合い行っているが、個々の協議についてコメントはしない」と回答した。
オスラム買収を狙っている中国企業のなかには投資会社GSRゴー・スケール・キャピタルが含まれているという。同社は蘭フィリップスの照明子会社ルミレッズを買収することで合意したものの、米国への直接投資(FDI)が国家安全保障に脅威とならないかを調べる対米外国投資委員会(CFIUS)が強い懸念を示したことから、取引が破談となった経緯がある。ルミレッズはカリフォルニア州サンホセの工場で軍事利用が可能なデュアルユースのLEDを生産しており、これがネックとなった。
中国企業がオスラム取得に強い関心を示すのは、同社が虹彩認識用の赤外LEDや照射距離600メートル超の自動車用レーザー照明など“オンリーワン”製品を持っているためだ。特に計1万8,000件に上る特許(うち1,700件はOLED、6,600件はLEDチップ分野)は産業の高度化を目指す中国にとって魅力が大きい。
シーメンスはオスラムの元親会社で、現在も株式17.5%を保持している。長期保有の考えはなく、条件が合えば売却する可能性がある。オスラムの株価は一時、落ち込んだものの最近は回復していることから、売却しやすい環境となっている。
ドイツ政府は最先端技術を持つ国内企業が中国資本の手に渡ることを制限するための対策を検討している。HB紙によると、可能性としては貿易法(AWG)の改正と欧州連合(EU)レベルでの規制が考えられる。
独貿易法にはEU域外の企業が独企業の資本25%超を取得することを禁止・制限できるとの規定がある。現行法では適用対象が安全保障の関わる企業に限られることから、政府はこれをハイテク企業にも拡大し、拒否権を行使できるようにしたい考えだ。ただ、これはEU法に抵触する恐れが高いため、EUレベルの規制導入が有力という。
オスラムは米国での生産もデュアルユース製品の生産もほとんど行っていない。このため中国企業が同社を買収してもCFIUSが拒否権を発動することはないとみられている。