自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の親会社ポルシェ・アウトモビル・ホールディングSE(ポルシェSE)は17日、フェルディナント・ピエヒ監査役(VWの前監査役会長)がポルシェSEの保有株を同社の共同出資者であるポルシェ家とピエヒ家のメンバーに譲渡する方向で交渉している事実を明らかにした。ピエヒ氏はポルシェSEから資本を引き揚げると同社を通して保有するVW株も手放すことになり、数十年に及ぶVWへの関与に終止符を打つことになる。ポルシェSEは『シュピーゲル』誌のスクープ報道を受けて、適時開示を余儀なくされた。
ポルシェSEは「ビートル」の愛称で有名な「フォルクスワーゲン・タイプ1」を開発したフェルディナント・ポルシェ氏の子孫であるポルシェ家とピエヒ家の持ち株会社で、VWの議決権付き普通株52.2%を保有する。
ピエヒ氏はVW子会社アウディで社長を務めた後の1993年に、VWの社長へと就任。2002年にはVWの監査役会長に鞍替えし、同社の事実上の支配者として長年、君臨してきた。
だが、2015年にマルティン・ヴィンターコルン社長(当時)を辞任させようとしたところ、VWグループ内で孤立。従弟であるポルシェSEのヴォルフガング・ポルシェ監査役会長もヴィンターコルン社長の支持に回ったため、ピエヒ氏はVW監査役会長を同4月に辞任した。
ヴィンターコルン社長を巡る争いの結果、ピエヒ氏とヴォルフガング・ポルシェ氏の関係は一気に悪化し、これがポルシェSEとVWに現在も影を落としている。ピエヒ氏がポルシェSEの保有株14.7%を手放せば、こうした問題は解消されることになる。
ピエヒ氏は4月の誕生日で80歳になる。ヴォルフガング・ポルシェ氏も73歳と高齢であることから、今回の件をきっかけにポルシェ、ピエヒ両家で世代交代が進む可能性もある。経済紙『ハンデルスブラット』によると、フェルディナント・ポルシェ氏から数えて4代目に当たる両家の次世代の面々は、ピエヒ氏と異なり技術者ではなく自動車メーカー経営への意欲も持たないため、ピエヒ氏のようにVWの実務に直接関与することはないとみられている。高級車大手BMWの筆頭株主であるクヴァント家のように、投資家のスタンスでVWに関与する可能性が高い。
ピエヒ氏の経営スタイルに対しては賛否両論が多いが、経営不振のVWが世界最大級の自動車メーカーに成長したのは同氏の力によるところが大きい。ピエヒ氏と対立したヴィンターコルン社長は15年秋の排ガス不正問題発覚を受けてすでに辞任しており、ピエヒ氏が資本を引き揚げると一つの時代に区切りがつくことになる。