FTA締結には全加盟国の議会承認が必要、欧州裁が見解

EU司法裁判所は16日、EUとシンガポールの自由貿易協定(FTA)について、投資家保護ルールなど一部の分野に関してはEUと加盟国が権限を共有しており、協定の完全な発効には全加盟国の議会の承認が必要との判断を示した。加盟国ごとの批准に伴う手続きの複雑化・長期化は避けられず、EU離脱後の英国や、米国、日本などと今後EUが締結する通商協定にも影響が及ぶのは確実な情勢だ。

EUとシンガポールは2014年10月、関税の引き下げや非関税障壁の撤廃に加え、投資、知的財産権の保護、政府調達など幅広い分野をカバーするFTAの締結で最終合意した。EUの通商協定で加盟国から交渉権限を付与されている欧州委員会は、シンガポールとのFTAにEUと加盟国が権限を共有する分野が含まれている可能性があるとして、欧州裁に見解を求めていた。

欧州裁は意見書で、貿易や政府調達など大部分の分野ではEUが排他的権限を有するのに対し、投資家保護など一部についてはEUと加盟国が権限を共有していると指摘。FTAの完全な発効には欧州議会と加盟国政府の承認に加え、各国議会の承認が必要になると結論づけた。

欧州裁の見解に基づくと、貿易などEUが単独でFTA締結の権限を有する分野に関しては、欧州議会の承認が得られた段階で暫定的に適用を開始することが可能だが、投資家対国家の紛争解決(ISDS)などについては全加盟国およびベルギーなど一部地域の議会による批准が必要で、全面的な協定の発効が大幅に遅れる可能性がある。このため、産業界からは「貿易パートナーとしてのEUの信頼性が損なわれる」(欧州化学工業連盟)といった声が上がっている。

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