欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は8日、追加利下げを行わない方針を打ち出した。ユーロ圏でデフレ懸念が後退し、景気回復が続いていることを受けたもの。量的金融緩和については現状を維持するものの、利下げ打ち切りは緩和一辺倒から方針を転換したことを示すもので、段階的に縮小して正常化する「テーパリング」に向けて一歩踏み出した格好となる。
ECBはユーロ圏のデフレ回避と景気下支えを目的に、ユーロ圏の国債や資産担保証券(ABS)、担保付き債券(カバードボンド)、EUの機関が発行する債券などを買い入れる異例の量的金融緩和を15年3月に開始。同日にエストニアの首都タリンで開いた定例政策理事会では、現行金融政策を維持し、主要政策金利を0%、中銀預金金利をマイナス0.4%に据え置くことを決めた。2017年12月末まで継続することになっている量的金融緩和についても、必要に応じて「拡大する用意がある」という従来の姿勢を変えなかった。
ただ、金利政策に関しては、ECBは声明で「当面は現行水準にとどまる」とし、従来の「現行水準か、それよりも低い水準とする」という表現を変更。利下げを打ち切る方針を示した。
ECBが利下げ終了を決めたのは、ユーロ圏の景気の緩やかな回復が続いているためだ。EU統計局は同日、1~3月期のユーロ圏の域内総生産(GDP)伸び率を従来の前期比0.5%から0.6%に上方修正(後続記事参照)。ECBは同日発表した最新の内部経済予測で、今年の予想伸び率を前回(3月)の1.8%から1.9%に引き上げた。ドラギ総裁は景気見通しについて、「下振れリスクがある」という従来の表現を改め、「リスクは概ねバランスがとれている」と述べた。
一方、量的金融緩和策の見直しについては、同日の理事会で議題に上らなかった。ユーロ圏の物価が持ち直しているものの、なお安定していないことが背景にある。ドラギ総裁は「デフレ懸念は消え失せた」としながらも、「基調は依然として弱い」と述べ、引き続き大規模な量的緩和で物価を下支えしていく必要性を強調した。ただ、市場ではECBが利下げ打ち切りに続き、量的緩和縮小の検討を9月以降に開始するとの見方が出ている。
5月のインフレ率は前年同月比1.4%で、前月の1.9%から大幅に縮小。ECBが目標とする2%前後を大きく割り込んでいる。ECBは最新予測で、今年の予想インフレ率を1.7%から1.5%に下方修正した。