ドイツの自動車メーカーがディーゼル乗用車の大規模なリコールを実施する。走行制限論議を受けて需要が大きく落ち込み、各社の将来に影を落としているためで、ダイムラーは18日、欧州全体で300万台以上を自主的にリコールすると発表。アウディとBMWは修理費用を顧客に負担させず全額引き受けることを地元バイエルン州政府に確約した。
ダイムラーでは乗用車ブランド「メルセデス」のディーゼル車に排ガスを不正に操作するソフトウエアが搭載されているとの疑惑が先ごろ浮上し、連邦陸運局(KBA)が調査に乗り出した。同社は容疑を否認しているものの、顧客の信頼感を失いディーゼル車の販売不振に拍車がかかる恐れがある。
ディーゼル車の販売が大幅に減ると、ガソリン車の販売が増える。ガソリン車は有害物質である窒素酸化物(NOx)の排出量が相対的に少なく、走行規制の対象となる恐れがないためだ。ドイツの新車登録統計にはこの傾向が昨年から鮮明に反映されている。
だが、ガソリン車はディーゼル車に比べて燃費が悪く二酸化炭素(CO2)排出量が多いことから、ガソリン車の販売比率が高まるとメーカーは走行1キロメートル当たりのCO2排出量を2020年以降、平均95グラム以下に抑制することを義務づける欧州連合(EU)のルールを遵守できなくなるという問題を抱え込むことになる。
ダイムラーはこうした事態を避けるために今回、大規模なリコールでディーゼル車に対する消費者の信頼を取り戻す考えだ。NOx排出量の少ない新ディーゼルエンジンを速やかに投入していくことも明らかにした。ディーター・ツェッチェ社長は「ディーゼルエンジンはCO2排出量が少ないことから、今後も駆動システムの確固たる要素であり続ける」と強調した。
リコールではソフトを交換する。費用はすべて同社が負担。約2億2,000万ユーロを計上する。
アウディとBMWは6月末、欧州排ガス基準「ユーロ5」に対応したディーゼル車のソフトを交換することで、州政府と合意した。両社はその時点でソフトの開発と認証費用を引き受けることを確約したものの、修理の手間賃を誰が負担するかについては決定が保留されていた。
だが、手間賃を仮に顧客に負担させれば強い反発を買い、ブランドロイヤルティが低下する懸念があることから、両社は今回、リコールの全費用引き受けを約束したとみられる。『南ドイツ新聞(SZ)』によると、アウディではソフト費用を1台当たり約50ユーロ、修理の手間賃も同程度の額と見積もっている。
ソフト交換という措置に対してはNOx排出削減効果が小さすぎるとの批判が専門家の間から出ている。
連邦環境庁(UBA)の調査によると、ユーロ5対応ディーゼル車のNOx排出量は走行1キロ当たり平均906ミリグラムで、現行基準「ユーロ6」の許容上限値80ミリグラムを大幅に上回っている。ユーロ5ディーゼル車のソフトを入れ替えても排出削減幅はせいぜい50%程度にとどまることから、リコール後も大量のNOxを排出することになる。
また、ソフトのアップデートにより走行・燃費性能がどの程度、低下するかも定かでない。デュースブルク・エッセン大学自動車研究センター(CAR)のフェルディナント・ドゥーデンフェファー所長はこうした事情を念頭に、ソフトを交換するだけでは全く不十分だと批判した。
全ドイツ自動車クラブ(ADAC)によると、排ガス浄化装置である尿素SCRシステム(ハード)を新たに取り付けると、NOxの排出量を約90%削減できる。それにもかかわらず、メーカーが尿素SCRシステムの追加取付を見送るのはコストが極めて高いためだ。ドゥーデンフェファー所長によると、1台当たりの費用は1,500〜2,000ユーロに達するという。