米国議会がクリミア半島併合をめぐる対ロシア制裁強化法案を可決したことに対抗し、ロシア政府は米国公館の人員の6割以上に国外退去を命じる報復措置をとる。国内2カ所の米国施設も閉鎖する。米国の制裁強化に対してはドイツ政府なども強く反発しており、欧州連合(EU)が何らかの動きをみせる可能性もある。
プーチン大統領は30日に放映された国営放送のインタビューで、対抗措置として、9月1日までにロシアの米国大使館・領事館員1,210人のうち755人を国外退去処分にする方針を明らかにした。大使館が保有するモスクワ郊外の保養施設と倉庫も8月1日までに閉鎖する。
米国連邦議会両院が28日までに可決した制裁強化法案にはトランプ大統領も署名する予定だ。同法案では、ロシアのエネルギー企業と提携する外国企業も制裁対象に加えられた。これに対しては、ロシアとドイツを結ぶバルト海天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」計画に参加する欧州企業も罰せられる可能性があるとして、ドイツ政府などが強く反発。欧州委員会に対抗措置の実施を求めている。ただ、米国が外国企業を処罰する前提としては「同盟国との調整」が必要とされており、現実に欧州企業に影響が出るのかどうかは不透明だ。
そもそも、今回の制裁強化では、ロシアへの締め付けが実際には強まらないという見方が強い。それでも米議会両院が圧倒的多数で法案を可決した背景には、ロシアだけでなくトランプ大統領に対する不信感の強まりがあるとみられている。
両院議員の間では政党を問わず、「昨年の大統領選挙中のハッカー攻撃の裏にロシア政府がある」という確信が広がり、「反ロシア」の姿勢が強まっている。
また、トランプ陣営が選挙中にロシアと密約を結んだ疑惑が濃厚になる中で、議員らが対ロシア制裁を法制化することで議会の関与を強める狙いがあったと考えられる。従来の方法ではトランプ大統領の一存で対ロシア制裁を解除することができたが、法制化により、廃止には議会の承認が必要となった。