欧州委員会は11日、EU共通の預金保険保証制度(EDIS)を導入する計画について、新たな提案を発表した。ドイツの反対で調整が難航しているためで、預金保証をEDISに一元化する案を撤回し、各国の基金と保証を分担する方式に変更する。
EUでは域内の銀行が破たんした場合に備えて、各国が銀行の拠出で独自に運用する預金保険基金を設立し、10万ユーロを上限に個人預金を保護することが決まっている。しかし、各国の基金だけでは対応できないことを想定し、共通の預金保険基金「欧州預金保険基金」を創設し、各国が独自に運用する基金を補完する案が浮上している。同基金は域内の銀行が自国の基金に拠出する資金の一部を受け取る形で運営される。
欧州委が2015年11月に発表した案では、EDISは3段階で導入され、欧州預金保険基金は創設から2020年までの3年間は、各国の基金が尽きた場合に必要とする資金を提供する「再保険」的な役割を担うことになっていた。その後の4年間は各国の基金と共同で預金保証を行い、必要となる預金保証のコストを分担する。初年度の分担率は20%。4年間で段階的に引き上げる。そして、2024年には分担率が100%となり、預金保証をEDISに一元化するという内容だった。
預金保険保証制度はEU銀行同盟創設構想の最終段階。銀行同盟はギリシャに端を発した信用不安への対応が後手に回り、債務危機の拡大を招いた反省を踏まえて、EUが2012年に打ち出したもの。これまでに銀行監督の一元化が実現。銀行破綻処理の一元化が決まっている。共通預金保険保証制度の発足により構想が完成する。
同制度をめぐっては、ドイツ政府が自国で集めた資金を金融システムが脆弱なユーロ圏の他の国の預金者保護のため使うことになるとして難色を示し、前提として銀行がリスク管理を強化することを要求。このため協議が難航し、具体案発表から2年が経っても前進していない。
欧州委の新提案では、EDISを2段階で導入する。具体的には◇第1段階では各国の基金が底をついた場合に、当初は保証額の30%を提供する。同割合は段階的に引き上げ、21年には90%とする◇第2段階では、共通基金が預金を直接保証するが、保証は一元化せず、引き続き各国の基金と共同で保証を分担する――という内容だ。また、第1段階から第2段階への移行は自動的ではなく、銀行の不良債権処理の進展状況を見極めた上で時期を決める。
欧州委はドイツの懸念に考慮した妥協案を提示することで、停滞している協議を前進させ、18年末までにEDIS導入の合意にこぎ着け、銀行同盟を完成させたい考えだ。不良債権処理に関しても、7月のEU財務相理事会で行動計画を採択し、各国が資産管理会社(AMC)と呼ばれる不良債権の買い取り会社を設立して処理を進めることや、セカンダリー・マーケット(流通市場)での不良債権売却を拡充する方向で具体案をまとめる予定であることを強調している。
しかし、ドイツ財務省は同日、新提案は不良債権問題などに十分に対応していないと批判。銀行のリスクが大幅に軽減されるまで協議に応じない意向を表明しており、18年末までの合意は難しい情勢だ。