欧州委員会は11日、世界最高水準のスーパーコンピュータを核とする高性能コンピュータ(HPC)のインフラ構築に向け、EUと加盟国が共同で2020年までにおよそ10億ドルを投じる計画を発表した。欧州に独自のHPCシステムを確立して同分野でEUの競争力を高め、最先端の科学技術や産業競争力の強化につなげる。
スパコンによるシミュレーションは理論、実験と並ぶ科学技術の第3の手法として不可欠な基盤となっており、病気の治療法や薬の開発、気象予測、地震や津波の被害予測など、幅広い分野で成果が期待されている。しかし、欧州ではニーズに見合ったHPCインフラが整備されていないため、域外でデータ処理を行うケースが急増しており、個人情報や企業秘密、データ所有権が脅かされている。
欧州委はこうした現状を改善するため、「ユーロHPC共同事業(EuroHPC Joint Undertaking)」と呼ばれる資金調達システムを立ち上げ、EU独自のHPCインフラを構築・展開する構想を打ち出した。この制度はスパコンで使用される技術およびハードウェア、ソフトウェアを開発するためのプログラムも支援する。
計画によると、EUは現行の多年次財政枠組みから4億8,600万ドルをユーロHPCに拠出し、加盟国にもほぼ同額の拠出を求める。さらにプロジェクトに参加する民間部門にもイニシアチブへの資金提供を呼びかける。
欧州委のアンシプ副委員長(デジタル単一市場担当)は「スーパーコンピュータはデジタル経済を推進する原動力だが、EUには世界のトップ10に位置するスパコンがなく、この分野で後れを取っている。ユーロHPCのイニシアチブを軌道に乗せて2020年までにEU独自のスパコンネットワークを整備し、人工知能、医療、セキュリティ、エンジニアリングなど幅広い分野で最先端の技術開発を推進していく」とコメントしている。