従業員の代表機関である事業所委員会(Betriebsrat)は業務の多くの事柄を雇用主と共同で決定する権利(Mitbestimmungsrechte)を持つ。これは事業所体制法(BetrVG)87条に定められたルールで、同条1項第7規定では労災・職業病の防止と健康維持に向けた規則も共同決定の対象とされている。では、個々の事業所委員会の代表からなる全体事業所委員会(Gesamtbetriebsrat)がある場合、労災・職業病の防止と健康維持に向けた規則を雇用主と共同で決定する権限を持つのは全体事業所委員会なのだろうか。それとも各現場の事業所委員会なのだろうか。この問題を巡る係争で、最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が昨年7月の決定(訴訟番号:1 ABR 59/15)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判はポストバンクの主力子会社ポストバンク・フィリアルフェアトリープ(以下ポストバンク)が、シュツットガルト事業所の現場レベルで共同決定したルールの無効確認を求めて起こしたもの。
同行シュツットガルト事業所では2015年1月15日、室内温度が30度を超えた場合はネクタイ着用義務を免除することが、調停所(Einigungsstelle)の決議で取り決められた。
調停所はBetrVG76条2項で定められた機関で、経営側と事業所委員会の意見の対立を解決するために設立される。メンバーは経営側と事業所委がそれぞれ同数を任命。またこれとは別に、中立の立場の人物1人を両者の合意で議長に任命する。調停所の決議は多数決で採択する。
ポストバンクはシュツットガルト事業所の決議について、健康維持に向けた規則を共同決定できるのは現場の事業所委員会でなく、全体事業所委員会だと主張。シュツットガルト事業所が導入を決めたネクタイ着用義務免除ルールの無効確認を裁判所に申請した。
原告は一審で勝訴したものの、二審で敗訴。最終審のBAGでも決定は覆らなかった。決定理由でBAGの裁判官は 全体事業所委員会が担当するのは、会社全体あるいは複数の事業所に関わる案件、および個々の事業所委員会では対処できない案件に限られるとしたBetrVG50条1項の規定を指摘。猛暑対策はそうした案件に当たらず、共同決定権は現場の事業所委員会が行使するとの判断を示した。