欧州委員会は8日、EUを人工知能(AI)などの技術を駆使して先進的な金融サービスを提供するフィンテックの中心的拠点とするための行動計画を発表した。ビットコインを支える技術として注目を集めるブロックチェーン技術やクラウドファンディングなどを安全に活用できる環境を整え、フィンテック市場の発展を促してEU経済の成長につなげるのが狙い。欧州委は行動計画に加え、クラウドファンディングのプラットフォームをEU全域で運用しやすくするための共通ルールも提案した。
金融サービス部門はデジタル技術の最大のユーザーであり、デジタル経済への移行を牽引する役目も担っている。行動計画には先端技術の活用を促すと同時にサイバーセキュリティを強化し、革新的なビジネスモデルの成長を後押しして競争力のある金融サービス市場を構築するための工程が盛り込まれている。
具体的には欧州委の主導で年内に「フィンテックラボ」を設立し、欧州各国の技術者や監督機関の代表などがブロックチェーンなどの新技術について、規制やリスク管理などに関する理解を深めるための活動を行う。また、ブロックチェーン技術に特化したフォーラムを立ち上げ、専門家が知識を結集して新たなビジネスの可能性や方向性について議論する場を提供する。このほか、EU全体でサイバーセキュリティ対策を強化するため、欧州委が各地でワークショップを開いて情報共有を促進することなどが盛り込まれている。
一方、欧州委はクラウドファンディングをスタートアップ企業や中小企業の重要な資金調達手段と位置づけ、EU全体でプラットフォームの安全な運用を促進するための規則案を提案した。国ごとのルールに従わなければならない現行システムに代わって「パスポート」制度を導入し、欧州証券市場監督機構(ESMA)がEU全域で有効な事業免許を付与する。ただし、事業の収益に応じて出資者に利益配分する投資型クラウドファンディングのうち、募集総額が12カ月で100万ユーロ未満のものが対象で、寄付型や購入型のクラウドファンディングには適用されない。
パスポート制度は英国のEU離脱を控え、ロンドンに拠点を置くフィンテック企業を離脱後もEU内に留める狙いがある。規則案は今後、閣僚理事会と欧州議会で検討されるが、来年5月には欧州議会選挙が実施されるため、市場関係者の間では新ルールが導入されるのは2022年以降との見方が出ている。