テロ組織ないし運動に参加している疑いのある被用者を雇用主は解雇することができるのだろうか。この問題を巡る係争でニーダーザクセン州労働裁判所が3月の判決(訴訟番号:15 Sa 319/17)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の組み立て工場に勤務するドイツ国籍のアルジェリア系社員サミール・Bが同社を相手取って起こしたもの。Bは2014年12月28日、シリアやイラクでテロ活動を展開するイスラム国(IS)に参加する目的でトルコのイスタンブールに向かおうとしたところ、独空港で警察から渡航を阻止され、パスポートも取り上げられた。
これを不当としてBが起こした行政訴訟でブラウンシュヴァイク行政裁判所は16年9月7日に訴えを退ける判決を下した。渡航阻止とパスの取り上げがともに合法と判断されたわけである。
VWは同判決を受けてBに即時解雇を通告。即時解雇が裁判で認められない場合に備えて、解雇予告期間を設置した通常解雇も通告した。VWは解雇理由として、Bの行動により職場の良好な環境・雰囲気(Betriebsfrieden)と安全が損なわれる恐れがあることを指摘した。
解雇を不当としてBが起こした裁判で、一審は原告敗訴を言い渡したものの、二審のニーダーザクセン州労裁は逆転勝訴判決を下した。判決理由で同州労裁の裁判官は、過激で戦闘的な「ジハード運動(イスラム聖戦運動)」に属しているという疑いだけでは解雇できないと指摘。解雇できるのは職場の環境・雰囲気と安全に具体的で差し迫った問題が起こり得る場合に限られるとの判断を示した。また、勤務とは無関係の事情を理由に解雇することは正当化できないとも言い渡した。
裁判官は最高裁の連邦労働裁判所(BAG)への上告を認めており、判決は確定していない。