欧州委員会は17日、テロや犯罪の防止に向けた取り組みの一環として、EU各国の警察や司法当局が電子メールやクラウド上に保存された文書などを迅速かつ容易に入手できるようにするための新たな法案を発表した。テロや重大犯罪の捜査に際し、EU内の他の国でサービスを提供している事業者に「電子的な証拠」の提出を命じる権限を当局に与える内容。今後、欧州議会と閣僚理事会で法案について検討する。
EUではこれまでも司法当局が国外から円滑に証拠を入手できるようにするための対策を講じているが、テロリストや犯罪組織がメッセージアプリなどのオンラインツールを利用して攻撃や犯行の準備を進めるケースが急増しており、現行ルールでは対応できなくなっている。欧州委はこうした現状を踏まえ、各国当局が国境を越えてオンライン上の証拠を迅速に確保できる仕組みを構築するための具体策を検討していた。
法案によると、加盟国の司法当局は域内の他の国に拠点を置いてサービスを提供している事業者に対し、電子メールやインスタントメッセージなどの提出を命じることができる。事業者は提出命令(Euroean Production Order)の受け取りから10日以内に電子的証拠を提供しなければならず、緊急の場合は6時間以内の提出が求められる。
証拠の提出または保存命令(Euroean Preservation Order)は刑事訴訟の手続きに沿って行われ、情報提供がサーバを置く国のデータ保護法に抵触する恐れがある場合は異議を申し立てることができる。また、本社が域外もある場合も含め、EU内でサービスを提供している事業者はすべて社内に法務責任者を置き、迅速に対応できる体制を整える必要がある。
一方、欧州委はテロ組織や犯罪組織によるパスポートなどの偽造防止策として、加盟国に対して身分証明書に生体情報の記録を義務付けるルールの導入も併せて提案した。国際民間航空機関(ICAO)が策定したガイドラインを基にEU共通のセキュリティ要件を定め、加盟国はそれに沿ってIDカードや滞在許可証に指紋や顔画像を記録する。セキュリティ要件を満たしていない身分証は新ルール導入から5年以内、機械読み取り式でない身分証は2年以内に撤廃される。ただし、IDカードを導入していない加盟国は新ルールの適用が除外される。