欧州委員会は23日、EU全体で内部告発者の保護を強化する新たな法案を発表した。域内共通ルールを導入して組織内における法令違反などの不正を告発しやすくし、通報者が報復解雇などの不利益を受けるのを防いで不正の抑止につなげる。今後、欧州議会と閣僚理事会で法案について検討する。
独フォルクスワーゲンによる排ガス不正問題、タックスヘイブン(租税回避地)を使った富裕層による蓄財や金融取引の実態を暴いた「パナマ文書」や「パラダイス文書」、2016年の米大統領選挙でトランプ陣営と契約していた英コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカが、米フェイスブックのユーザー情報を不正流用した問題など、世界を揺るがした多くのスキャンダルが内部告発によって発覚した。しかし、EU内で内部告発者を保護する制度が整備されているのはフランスや英国など8カ国にとどまり、実際には報復を恐れて不正を告発できないケースが多い。欧州委はこうした現状を踏まえ、EU全体で内部告発者を高いレベルで保護するための具体策を検討していた。
法案によると、従業員50人以上または売上高が年間1,000万ユーロを超える企業と、国および地方公共団体の諸機関と人口1万人以上の自治体は、内部通報のルートを整備して組織内に専用の窓口や担当者を置き、通報を受けてから3カ月以内に内容を調査して通報者に結果を伝えることが義務づけられる。一方、加盟国は外部(行政機関や報道機関など)への通報ルートを整備し、通報を受けた機関は3カ月以内(複雑な事案では6カ月以内)に調査結果をまとめて通報者に知らせなければならない。
企業や組織は内部告発を理由にいかなる報復措置も講じてはならず、通報者が解雇や降格、職場でのいやがらせなどの不利益を被った場合は法的助言と救済措置(報復人事の撤回など)を受けることができる。この場合、通報者が内部告発を理由に報復を受けたことを証明する必要はなく、企業や組織が報復措置を講じていないことを証明しなければならない。訴訟に発展した場合も同様に、企業や組織が立証責任を負う。
欧州委のティーマーマンス第一副首相は声明で、「近年、内部告発によって多くの不祥事が明るみになったが、告発者は大きなリスクを背負って行動に出た。内部告発者を確実に保護することができれば汚職、資金洗浄、課税逃れ、環境汚染などを未然に防ぎ、市民の安全や公共の利益を脅かす事態を回避できるケースが増える。正しい行いをした人が不当な扱いを受けることがあってはならない」と強調した。