ドイツテレコム―米子会社が合併、2大大手追撃へ―

電気通信大手のドイツテレコムとソフトバンク(ボン)は4月29日、それぞれの米子会社TモバイルUSとスプリントを合併することで合意したと発表した。合併により米移動通信市場の2大大手であるベライゾン、AT&Tに匹敵する事業規模を獲得し、追撃する考えだ。ドイツテレコムは合併後の新会社(TモバイルUS)を連結対象とし経営権も掌握。ソフトバンクは新会社を持分法適用関連会社とする。

株式交換方式で合併を実施する。合併比率はTモバイルUS株1株当たりスプリント株9.75株で、出資比率はドイツテレコムが41.7%、ソフトバンクが27.4%、ドイツテレコム以外のTモバイルの株主が25.3%、ソフトバンク以外のスプリントの株主が5.6%。ソフトバンクは保有する新会社株の議決権をドイツテレコムに付与することから、ドイツテレコムは過半数議決権を行使できる。

新会社の取締役は14人で、そのうち9人をドイツテレコム、4人をソフトバンクが指名する。最高経営責任者(CEO)にはTモバイルUSのジョン・レジャーCEO、取締役会会長にはドイツテレコムのティム・ヘットゲス社長が就任する。ソフトバンクの孫正義会長は取締役会に加わる。

TモバイルUSとスプリントの今年の業績見通しをもとに計算すると、新会社の顧客数は約1億2,700万人、売上高は約760億ドルとなる。時価はおよそ1,460億ドル。保有周波数帯とそれに伴うネットワーク規模、60億米ドル強のコストシナジーを合算した正味現在価値(NPV=投資によってどれだけの利益が得られるのかを示す指標)は430億米ドル以上を見込む。

合併の実現には米連邦通信委員会、各州の公益事業委員会、対米外国投資委員会(CFIUS)などの承認が必要。来年半ばまでの合併手続き完了を見込む。ドイツテレコムのヘットゲス社長は経済紙『ハンデルスブラット』に、TモバイルUSとスプリントの合併は米市場の競争と同国経済にとって好ましいと述べ、合併計画が当局に承認されるとの予想を示した。米トランプ政権は規制緩和方針を取っているため、オバマ政権下に比べて承認のチャンスは高いとみられている。

米国の移動通信サービス市場では最大手のベライゾンと2位のAT&Tがそれぞれ35.6%、33.4%のシェアを握る(2017年第4四半期)。TモバイルUSは17.1%で3位、スプリントは12.6%で4位と、上位2社に大きく水をあけられている。合併すると約30%に拡大し、同国市場は勢力がほぼ拮抗する3社が競い合うようになる見通しだ。

TモバイルUSとスプリントの合併はこれまでに2度、試みられたが、ともに失敗した。第1回目の14年は新会社の経営権をソフトバンクが握ることでドイツテレコムとの間に合意が成立したものの、米市場の主要プレイヤーが4社から3社に減り競争が鈍化することを懸念した当局が承認せず、とん挫した。

昨年秋の2回目の試みでは新会社の経営権をソフトバンクとドイツテレコムのどちらが握るかで合意できなかったことから、交渉が決裂した。ドイツテレコムは1回目の合併計画が失敗した後、TモバイルUSへの巨額投資を通して同子会社の競争力を高めることに成功。同子会社が業績のけん引車となったこともあり、1回目と異なり経営権の放出を受け入れない方針へと転換した。今回の合意で新会社の経営権をドイツテレコムが握ることを取り決めたことは、ソフトバンクが譲歩したことを意味する。

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