過疎地の老人医療~ブルガリア

多くの医師がより良い労働条件を求めて西欧に移住するブルガリアだが、そんな中でも国にとどまり、ボランティアで過疎地の老人を診療する医師らがいる。もうすぐ医学部を卒業するシェイプ・パネフさんもそんな一人だ。

ある日曜日、パネフさんは首都ソフィアの北西約100キロメートルにある村へ向かった。患者の一人であるミルカさんは高血圧症に悩む。本人は、ほぼつけっぱなしのテレビで流れる「連続ドラマでドキドキハラハラしたりするせい」と話すが、パネフさんは薬の飲み方が悪いせいではないかと考えている。「毎日1回、必ず朝に飲んでくださいね。昼になってからではだめですよ」と念を押す。

ブルガリア北西部は欧州連合(EU)の中でも最も貧しい地域の一つ。住んでいるのは老人と犬と鶏だけだ。医師が来るのは月一度、それも天気が悪いと来ない。

公的医療の不備についてパネフさんは語る。「大学では、『救急医療では最初の5~10分が勝負』と教わる。けれどブルガリアでは救急車を呼んでも2~3時間、ときには4時間待たなければならない。特に過疎地ではそうだ」原因は医師不足で、本当なら助かるはずの患者が死んでいくという。

ブルガリア医師会によると、ドイツだけでもブルガリア人医師が1,600人以上働いている。パネフさんは「若い医者が西欧に行きたいというのもわかる。ブルガリアは厳しいから」と言いつつ、自身はブルガリアで人の役に立とうと決意している。年配の患者に会うと、自分の祖父母のように思え「温かい気持ちになる」という。患者にもとても喜んでもらえ、「生きている甲斐がある」と感じられる。

ミルカさんはパネフさんの診療後、隣村のコーラスに出かけた。ひざは痛いけれどまだまだ声は出る。次の診療ではパネフさんにひざを診てもらうつもりだ。

上部へスクロール