ロシアで話される少数言語は数知れない。それだけあって、なかなか個性的な言葉もある。全国共通のロシア語は、日本語の格助詞「がのにを」に当たる「格」が6つあり、習得が難しいといわれるが、そのロシア語が足元にも及ばない言葉がある。
北カフカスのダゲスタン共和国南部で話されるタバサラン語には名詞の格が48ある。15万人の話者がいるが、この格変化のせいで「世界一難しい」とうわさされる。
また、同じカフカス地方のカラチャイ・チェルケス共和国に住むアバサ人の言語は、アルファベットが71個ある。母音はこのうち6つだけで、他はすべて子音。「シュー」とか「ヒュー」と聞こえるものが多く、アバサ語を母語としない人には区別できない。このため、「外国語として学ぶのは不可能」といわれている。
極東最東端のチュクチ自治管区に住むユッピク人は63もの活用形を操る。インターネットは「ikiaqqivik」というが、直訳すると「いくつもの層を通る旅」という意味だ。
しかし、少数言語の話者数は多くなく、2010年の国勢調査で「話せる言葉」を聞いたところ、英語が750万人(5.48%)と、ロシア語に次いで多かった。少数言語で最も話せる人が多いタタール語は3%に過ぎない。
話す人が少ないということは、次第に消滅していく可能性も高い。少数民族が出世のためにロシア語を重視する傾向もあり、言語学者の中には「ロシアの多様性が失われる」と危惧する声が出ている。
タタルスタン共和国の学校でタタール語を必修としているのに反対の声が上がったのを受けて、ロシア議会ではこの7月、「母語」を科目として採用する法案が成立した。生徒は少数言語とロシア語の中からどの言葉を学ぶか選択できるようになり、少数民族出身の生徒がロシア語を選ぶようになれば、少数言語の衰退が加速する可能性もある。