欧州連合(EU)域内で販売される乗用車の二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに35%引き下げるとしたEU環境相理事会の合意に対し、独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)グループのヘルベルト・ディース社長が懸念を表明した。同社長は11日発行『南ドイツ新聞(SZ)』掲載のインタビューで、同合意が仮に実施されると、VW工場の従業員の4分の1に当たる約10万人が職場を失うことになると指摘。「産業というものは多くの人が考えるよりも速いスピードで凋落しうる」と述べ、自動車産業自体が危機に陥りかねないと警鐘を鳴らした。
EUは08年、15年までに乗用車と小型商用車のCO2排出量を走行1キロメートル当たり平均130グラム以下とする規制を導入。14年には21年までに同95グラム以下に抑えることを義務づける規制案が採択され、各メーカーは同目標の達成を目指して電気自動車(EV)など環境対応車への移行を急いでいる。
EUは同規制をさらに強化する方針で、欧州委は昨年11月、30年までに21年目標比で30%の削減を義務化する案を打ち出した。これに対し欧州議会は3日、同40%規制案を採択。加盟国の環境相で構成される環境理事会は10日、乗用車の削減幅を両者の中間の35%とすることで合意した。合意には25年までに同15%を削減するという中間目標も盛り込まれている。
ドイツのスヴェンヤ・シュルツェ環境相は首相官邸の同意を得たうえで35%規制に賛成した。これまで30%を超える規制に反対してきたアンゲラ・メルケル首相も支持を表明しており、自動車業界の危機感は大きい。独自動車工業会(VDA)のベルンハルト・マッテス会長は、欧州自動車業界は国際競争で大幅に不利な立場に追い込まれ、産業立地競争力の低下と雇用の減少につながると述べ、同合意を批判した。VWのディース社長は30%が許容上限だとしている。