EU司法裁判所の法務官は10日、ネット上で公開された自身に関する情報を検索結果から削除するよう個人が要求できる「忘れられる権利」について、原則としてEU域外では適用できないとの見解を示した。司法裁は同権利をめぐる仏データ保護当局と米グーグルの訴訟について判断を求められている。仏当局はEU域外でも検索結果からの削除を要求できると主張しているが、法務官の見解はこれを退けた格好だ。
「忘れられる権利」はグーグルに対して自身に関する過去の報道の削除を求めたスペイン人男性の訴えをめぐり、EU司法裁が2014年5月に下した判決で認めた権利で、18年5月に施行されたEUの「一般データ保護規則(GDPR)」にも盛り込まれている。
グーグルは司法裁の判決後、個人からの要請を受けて検索結果から個人データを削除するなど対応を進めてきた。しかし、フランスのデータ保護当局である情報処理・自由全国委員会(CNIL)は15年、EU域外での検索結果についても忘れられる権利に基づいて個人データの削除要請に応じるようグーグルに命令。16年にはグーグルの対応が不十分だとして10万ユーロの罰金支払いを命じた。グーグルは命令を不服として仏国務院に上訴し、国務院が司法裁に判断を求めていた。
司法裁の法務官は忘れられる権利に基づき、全世界で事業者に個人情報の削除を強制できると解釈した場合、独裁政権による情報管理を容認することになりかねないと指摘。「個人情報やプライバシーに関する権利と、検索情報がもたらす正当な公共の利益といった他の権利のバランスをとる必要がある」と説明した。法務官の見解は拘束力を持たないが、司法裁はこれに沿った判決を下すケースが多い。