ロシア原子力公社(ロスアトム)の核燃料子会社トゥヴェル(Tvel)が、重大事故発生時の水素発生を抑制する「事故耐性燃料(ATF)」の開発を進めている。ウグリュモフ副会長(研究開発事業担当)によれば、来年か再来年には商業ベースに乗るという。ただ、競合より遅くATF開発に着手したトゥヴェルが、他社より早い「実用化」の見通しを示したのは、「原子炉販売に向けた広告ではないか」との見方も浮上している。
ウグリュモフ副会長は独『ハンデルスブラット』紙の取材に対し、ATF開発の方向性として、(1)燃料被覆材の耐熱化(2)クロム・ニッケル・モリブデン合金製の被覆管採用(3)複合材製の被覆管採用(4)燃料材料の改良――の4つがあるとした。そのうえで、(1)は近く試験炉で実用テストを実施し、来年か再来年には商業ベースに乗るとの見通しを示した。
さらに、「原子力発電の安全性をめぐる問題は複雑で、『人的要因』が大きい」としながらも、「ATFの導入が成功すれば、大規模事故の心配はない」と自信を示した。
しかし、ロシアの環境保護活動家であるスリヴャク氏は、「ATF開発に出遅れたロスアトムが、他社に先駆けて『成功間近』を発表しても、すんなりとは信じられない」とコメント。そのうえで、使用済み核燃料の最終処分の問題が解決されない以上、原発が安全とは言えないと語った。
ATF開発には米国のウエスチングハウスやゼネラルエレクトリック(GE)、仏フラマトム(旧アレバ)が乗り出しており、2025年の市場供給開始を目標にしている。
世界の電源構成に占める原子力の割合は過去20年間で18%から10%へ縮小したが、ロシアは今後、現行の18.9%から20~30%へ引き上げる方針だ。また、現在35カ所にある原子力発電所に加え、約20カ所に新設する計画を掲げる。
独シーメンスなどの競合が原発事業から撤退しているのを受けて、ロスアトムは国外でも事業を拡大する狙いで、ロシア政府による積極的な建設融資を後ろ盾に営業を展開している。
トゥヴェルは世界第3位、シェア17%の核燃料メーカーで、世界14カ国の原子炉72基に燃料を供給する。