中央アジアのカザフスタンが北極海航路の開発に期待を寄せている。ユーラシア大陸の中央に位置し海への出口をもたない同国は、北極海につながる河川を通じた航路の開拓を同国の経済開発に結びつけようとしている。同国は国際河川の港湾施設を拡充すると共に、北極海の河口部の開発を進めるロシアとも協力し北極海航路への接続を狙っていく方針だ。
■ロシアのサベッタ港が鍵
中国の新疆ウィグル自治区に発しカザフスタン東部を横切って流れるエルティシ川はロシアの西シベリアでオビ川に注ぎ込み、ヤマル・ネネツ自治管区で北極圏のカラ海につながっている。オビ川とエルティシ川の総延長は5,410キロメートル。川幅は広く水深も深いため内航河川の船舶のみならず外洋船舶も通航することが可能だ。港湾インフラさえ整備されればカザフスタンは内陸国から事実上脱することができ、貿易や産業の発展に好影響をもたらすと考えられている。
ヤマル・ネネツ自治管区の港湾を含む輸送インフラは、経済学者ミュルダールの説く「循環的・累積的因果関係論」に沿った好循環・還元型な産業クラスターの基盤となるものだ。港湾の整備と北極海航路の開拓、それにユーラシア大陸内部の産業開発の進展によってカザフスタン経済を大きく補完する可能性がある。
鍵となるのはオビ川の河口にあるロシアのサベッタ港だ。同港を通してカザフスタンは北極圏のカラ海につながり東アジアや欧州の市場にアクセスすることができる。サベッタ港はもともとタンベイスコエガス田からガスを積み出すために整備されたもので、ヤマル半島から東アジアへの輸送を想定している。サベッタは主として天然ガスの液化設備と積み出し港として建設されたが、コンテナ向け複合輸送施設も整備されつつある。
ロシア側の地方政府は同港の開発を歓迎している。2015年には同自治管区の議会が同港とロシアの産業地帯を鉄道で接続する計画を承認した。またウラル地方の政府関係者の間には同港が破氷能力を持つ貨物船を利用することで、年間を通してウラル地方の海への玄関口として機能できると期待する声がある。
■進む河川輸送の整備
ヤマル・ネネツ自治管区の内航河川の開発はすでに西シベリア地方の地方政府によって進められている。エルティシ川がカザフスタンと中国の国境地帯からオビ川に合流するまでの区間、5,410キロメートルの全体で船舶の航行が可能なほか、西シベリア低地からサベッタまでの1,200キロメートルは外洋船舶が航行できる。ロシア政府は物流システムに関する国家戦略の中で、エルティシ川の船舶輸送のための電子航行データベースを2020年までに整備し、外洋船舶が河川を安全に航行できるようすることを計画している。
サベッタ港以外にもオビ川沿いのサレハルドとオムスクで港湾施設の増強が進んでおり、ボルガ地方からの大型設備の輸送に利用されている。また2016年には韓国の蔚山から製油所のプラント設備を北極海経由のルートを通じてカザフスタンのパブロダルまで輸送した実績もある。
■中露の協力が不可欠
同ルートはカザフスタンにとり海への出口を持つということ以外にも重要な意味を持つ。上海協力機構(SCO)研究センターのボロネンコ氏は、南北を結ぶ内航河川の開発を中国が推進する新シルクロード経済圏構想と垂直に交わるものとして評価する。
ロシアが進めるヤマル・ネネツの開発はカザフスタンがユーラシア大陸から海に出るのに必要なインフラをもたらし、グローバル市場へのアクセスを劇的に変化させる。ロシアとカザフスタンにはすでに法的な枠組みが存在しているため、ロシアのオムスクとカザフスタンのパブロダルなどとの間の輸送量を増やすことは難しくない。
北極海を利用したカザフスタンの海洋戦略はロシア側の経済開発や投資、地政学に大きく左右される。カザフスタンにとって重要な点は◇サベッタ港と、コンテナ積み替え港への転換に対する投資の拡大◇サベッタ港からオムスクまでのバージ(はしけ)輸送の能力と信頼性の確保◇北極海航路での積み替え増に対するロシアと中国の協力――の3つである。オビ川・エルティシ川を通り北極海航路でコンテナ輸送をすることができれば、カザフスタンは東アジアと欧州さらには世界の大洋における海洋国家となる可能性がみえてくる。