キリスト教民主同盟(CDU)、キリスト教社会同盟(CSU)、社会民主党(SPD)の独与党3党は10日、今後の政策方針などで合意した。最も注目を集めたのは最低保障年金構想。中道右派のCDU/CSUと中道左派のSPDは最低保障年金の具体策をめぐって数カ月に渡り対立してきたが、ようやく妥協点を見つけることができた。
与党は2018年2月の政権協定で、公的年金保険料を35年以上、納付した就労者に生活保護を10%上回る「最低年金」を保障する政策方針を取り決めた。生活保護は現在、単身者で約800ユーロ(全国平均。家賃が高い大都市部はこれを上回る)であることから、条件を満たしていれば月およそ880ユーロが保障されることになる。
年金受給額が少ない人のなかには、夫の収入が大きい共働きの主婦なども含まれる。こうした人は老後に貧困へと陥る恐れがないことから、政権協定には最低年金の申請者を対象に年金の上乗せが本当に必要かどうかを調べる「必要性審査」の導入が盛り込まれた。
だが、SPDは今年初、最低年金を必要性審査抜きで支給するという政権協定から逸脱した構想を打ち出した。
背景には、年金受給額が生活保護水準を下回ってるにもかかわらず、生活保護を申請しない人が受給資格者の3分の2を占めるとの事情がある。生活保護を受給できることを知らない人や、個人の生活事情を細かな点まで役所に伝えなければならないことを嫌う人が多い。
最低年金支給の前提として必要性審査を義務づけると、資格があるにもかかわらず受給申請を行わない人が多く発生する恐れがあることから、SPDは同審査の不導入方針へと転換した。
これに対しCDU/CSUは、最低年金を本来必要としない人に支給すれば、財政支出がいたずらに膨らむと強く反発。SPDと火花を散らしながら妥協点を模索し、今回、必要性審査の代わりに「所得審査」を行うことで合意した。
所得審査では支給のための審査を年金当局と税務当局が自動的に行うことから、受給資格者の申請が不要で、申請しないがゆえに受給できないという問題が解消される。ただ、資産の審査は行われないことから、家計的にみて最低年金を必要としない人も受給するケースが出てくる。
与党3党は最低年金を21年1月に導入する意向だ。受給者は120万〜150万人に上り、その8割を女性が占める見通し。年コストは10億〜15億ユーロを見込んでいる。
与党はこのほか、◇低収入の被用者を支援する目的で国が支給している企業年金保険料の補助金を現在の2倍の年288ユーロに引き上げる◇自社株を購入する被用者に企業が支給する助成額の税・社会保険料控除枠を現在の2倍の年720ユーロに引き上げる◇労使が折半する失業保険料の料率を22年末までの期限つきながら現在の2.5%から2.4%へと引き下げる◇デジタル化や温暖化防止など重要な技術分野のスタートアップ企業などに出資するファンド(資金総額は最大100億ユーロ)を政策金融機関のドイツ復興金融公庫(KfW)内に設置する——なども取り決めた。