外資規制を一段と強化、AI企業などへの出資も審査の対象に

貿易法(AWG)の実施に必要な細則を定めた貿易政令(AWV)をドイツ政府が改正する。中国企業による国内ハイテク企業の買収を念頭に置いた措置で、経済省の審査対象とする案件の範囲を拡大する。経済省のAWV改正原案をもとにロイター通信などが28日、報じた。同政令の改正はこの3年間で3度目となる。

貿易法・政令には、「ドイツの公共秩序・セキュリティが危険にさらされる」と経済省が判断した場合、EU(欧州連合)および欧州自由貿易連合(EFTA)域外の企業がドイツ企業に一定比率以上、出資することを禁止できると定められている。

政府は産業ロボット大手の独クーカが中国家電大手の美的集団に買収されたことを受けて2017年、AWVを改正した。クーカはドイツの産学官が一体となって推し進める「インダストリー4.0」の中核的な企業の1社であるためだ。他のハイテク企業が中国資本の買収標的となっていることもあり、改正に踏み切った。

具体的には外資による出資を禁止できる対象を初めて具体的に規定。電力、病院、港湾など重要インフラの運営事業者やこれらのインフラに用いるソフトウエアの開発会社への出資を外資が計画する場合は、買収可否の審査対象になることが明確化された。

また、EU・EFTA域外の企業が域内に子会社を設立して貿易法・政令の審査規制を回避することを防ぐために、審査期間を従来の2カ月から4カ月に拡大する条項も追加された。審査期間を長期化したことで、経済省は買収計画の詳細な情報を収集し、買収主体の背後に域外の政府や政府系投資会社が隠れていないかを調べやすくなった。

背景には、中国企業がEUのハイテク会社を買収する場合、自国政府の資金支援を受けるとともに、EU域内に子会社を設立することが多いという事情がある。

政府は昨年12月にも同政令を改正した。この改正のきっかけとなったのは、中国の国有送電会社である国家電網が試みた独送電事業者50ヘルツへの資本参加だ。国家電網は50ヘルツへの出資比率を20%にとどめる考えだったことから、政府は25%以上を審査の対象にするとしたAWVの規定に基づく拒否権を行使できず、出資を阻止するために50ヘルツの出資者に水面下で働きかけるという「裏技」を使わざるを得なかった。この反省を受けて、拒否権を行使できる出資比率を「25%以上」から「10%以上」へと引き下げた。

今回の改正ではさらに、今後の国際競争で決定的に重要な人工知能(AI)、ロボット、半導体、バイオテクノロジー、量子技術も規制対象に加える。これらの分野で活動するドイツ企業にEU・EFTA域外の企業が10%以上の出資を計画する場合は、経済省への報告を義務づける。同省は審査を行い、拒否権を行使できる。

政府は審査対象となる案件の規定も変更し、外資の出資に伴うリスクが確実でない場合でも拒否権を行使できるようにする意向だ。現行AWVでは「公共秩序・セキュリティが危険にさらされる」場合を審査対象としているが、改正原案ではこれが「公共秩序・セキュリティに支障が見込まれる」場合へと改められている。

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