中道左派の独与党・社会民主党(SPD)の党大会が6~8日の3日間ベルリンで開催され、11月の党首選挙で勝利したサスキア・エスケン連邦議会(下院)議員とノルベルト・ヴァルターボルヤンス前ノルトライン・ヴェストファーレン州財務相の共同候補が新党首に選出された。両党首はこれまで、中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)との現連立政権を批判してきたものの、党大会では今後の政策をCDU/CSUと協議していく考えを提示。差し当たり政権に残留する意向を表明した。ただ、党大会では社会福祉色の濃い方針が決議され、2000年代前半に同党のシュレーダー首相(当時)が導入した構造改革からの決別が明確に打ち出されており、連立政権を維持できるかは微妙だ。
SPDと緑の党からなる中道左派のシュレーダー政権は03年から05年にかけて、構造改革「アゲンダ2010」を実施した。手厚い失業保険などにメスを入れるとともに、企業の税・社会保険料負担を軽減することが柱。その効果で「欧州の病人」と呼ばれていた経済は06年から力強く回復し、08年のリーマンショックに端を発する世界的な金融・経済危機からもいち早く立ち直った。
だが、同改革は非正規雇用の拡大や高齢労働者の貧困転落懸念の強まりなど大きな副作用ももたらしたことから、SPDでは左派党員が大量に離党して、独東部に強い基盤を持つ民主社会党(PDS)と合流し07年に左翼党を結成。連邦議会(下院)選挙でのSPDの得票率は05年の34.2%から09年には23.0%へと激減した。
SPDはこれを受けて構造改革路線に修正を加えてきたものの、党勢を回復できず、17年の前回選挙では過去最低の20.5%に落ち込んだ。このため同選挙後にCDU/CSUと樹立した現政権では最低保障年金など社民らしい政策実現に道筋をつけた。
それでも支持率は落ち込んでおり、最新の世論調査では高くて16%、低いと11%にとどまる。もはや大政党とは言えない水準が続いており、党員間では先行き懸念が強い。
CDU/CSUとの連立政権に批判的な新党首が今回、選出された背景にはこうした事情がある。構造改革で弱まった社民色をこれまで以上に強く打ち出したうえで、CDU/CSUから大きな譲歩を引き出す考え。これが実現しない場合は政権からの離脱も辞さないというのが新党首のスタンスだ。
「ハルツ4」の罰則規定緩和
党大会ではアゲンダ2010の大幅修正方針が採択された。最大の目玉は求職者基礎保障制度の見直しだ。
同制度は長期失業者と生活保護受給者の削減を狙って導入されたもので、通称「ハルツ4」と呼ばれる。その骨子は長期失業者と就労能力のある生活保護受給者を対象に新たに「第2種失業手当」を設置したうえで、給付水準を従来の生活保護よりも低く設定し就労を促すというもの。再就職を拒否した受給者は給付金を減額される。また、一定水準以上の資産を持つ者は受給できない。
同改革の成果で失業者数は大幅に減少したものの、エスケン新党首は「SPDは低賃金セクターの創出に加担した」と批判。「今こそ姿勢を改める時だ」と述べ、ハルツ4の抜本改革方針を表明した。
具体的には第2種失業手当の名称を「市民手当」へと改めたうえで、資産や罰則規定を緩和する意向だ。市民に身近な社会国家として再就職活動を「親身に支援していく」としている。
このほか、◇アゲンダ2010で短縮された高齢労働者の失業手当給付期間を再び延長する◇最低賃金を1時間当たり12ユーロへと引き上げていく◇公的年金の支給開始年齢を据え置くとともに、支給水準を長期的に維持する◇財政赤字の計上を回避する「シュヴァルツェ・ヌル(黒字のゼロ)」政策を廃止するとともに、単年度財政赤字の対名目国内総生産(GDP)比率を原則0.35%未満に抑えることを義務づける基本法(憲法)の規定を改正し、環境やインフラ、科学技術への投資資金を確保できるようにする◇温暖化防止政策で低所得者に過大な負担が生じないようにする◇家賃が高騰する都市でその値上げを5年間、凍結できるようにする◇純資産200万ユーロ以上を持つ富裕層に資産税を課す――方針も採択した。CDU/CSUが受け入れるのは難しい政策案で、交渉は難航が予想される。