資源の乏しい日本は輸入した原料を工業製品に加工して輸出する。小学校の社会で習ったことを今も覚えている。産業構造が似ているドイツも事情は同じて、鉄鉱石や石油を国外から輸入し、中間財、投資財、消費財を輸出している。
ただ、島国の日本が輸入した原料を主に海浜地域で加工するのに対し、ドイツは多くを内陸へと運ぶ。そこで活躍するのが河川である。廻米などの輸送で江戸時代に栄えた河川水運が鉄道の普及で急速に廃れた日本と異なり、大陸欧州では近代化と産業革命の重要なインフラとなり、現在もその機能を果たしている。ドイツ最大の化学メーカーであるBASFとバイエルがライン川沿いに本社を置くことや、バーゼルがスイス化学産業の中心地に発展したのは偶然ではない。今はなきヘキストもライン川の支流であるマイン川沿いに本社があった。
素材産業の生命線とも言えるこのインフラはしかし、脆さを抱えている。ドイツ各地で現在、起きている氾濫のニュースを見、改めてそう思った。川岸に水があふれた状態では船舶が航行できないのだ。
物流を止めるのは洪水だけではない。夏に晴天が続くと今後は逆に水位が下がり過ぎて航行不能となる。近年頻発に起きるようになった問題である。
ライン川は19世紀の国際的な長期の河道直線化プロジェクトで大型船が航行できるようになった。現代の科学技術は当時に比べ大幅に進歩しているが、天候という巨大な自然現象の前にはほとんどなす術がない。長い時間をかけて温暖化を防止し、大気中のCO2を減らしていく以外に抜本的な解決策は恐らくないだろう。