先月17日からチェコで国勢調査を目的とする世帯訪問が始まった。オンラインで回答しなかった人以外から情報提供を求める目的で、貧困層に属する人の多いロマ民族が主な対象グループの一つとなる。
国勢調査は10年に1度。自治体への予算配分や学校建設、道路整備などの決定の重要な下敷きとなる。しかし、特にロマ人で民族的属性を隠す人が多いことが状況を難しくしている。11年の前回調査では「ロマ人」と回答した人は約1万3,000人と、専門家の推定値(20万~30万人)に比べて極端に少なかった。
理由の一つは、ロマ人の多くに差別されているという意識があるためだ。ブルノにあるロマ文化博物館のヤナ・ホルヴァートホヴァー理事によると、「多数派の市民はロマ人やロマ人の抱える問題に関心がない。少数派の問題が多数派の問題でもある事実に気づいていない」と話し、その例として、長年の働きかけにも関わらず、チェコの学校でロマの歴史が授業に全く取り上げられないことに触れた。
もう一つの理由は、第一次・第二次世界大戦間に実施されたチェコ・スロバキア(当時)の国勢調査データが、ナチスのボヘミア・モラビア占領以降、ロマの虐殺「ポライモス」に悪用されたことにある。ロマ人の9割が強制収容所で殺された記憶で、民族名を明らかにするのに慎重な人が多いのだ。
このほか、現地のロマ民族団体によると、民族的属性について複数回答が可能なことを知らない人がほとんどだという単純な障壁もある。自分が「チェコ人」でも「ロマ人」でもあると感じて居れば、双方にチェックを入れて良いのだ。
このような点はもちろん、国や地方自治体、地域のどのレベルでも、人口が多ければ民族の影響力が大きくなるという根源的な利益を周知させるべく、民族団体も統計局も足並みをそろえてキャンペーンを展開している。世帯訪問による調査は11日に終了するが、その結果やいかに。公式なロマ人口がどれほど増えるかがキャンペーンの成功度をはかる基準となりそうだ。