ドイツの外交政策を巡り中道右派の現与党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と野党緑の党の違いが鮮明になっている。両党が次期政権を共同で樹立する場合、政策調整は難航する可能性がある。
日刊紙『フランクフルター・アルゲマイネ』紙によると、アンゲラ・メルケル首相(CDU元党首)はCDU/CSU連邦議会議員団の会合で、外交は価値観と共同の利益の組み合わせだと述べたうえで、米国との今後の関係で共通の価値から今のところ自動的に利害の一致は生まれていないとの認識を示した。具体的には対中政策と、独露間に2本目の海底ガスパイプラインを敷設する「ノルドストリーム2」計画で米国と立場の違いが大きいことを示唆した。
一方、米トランプ政権時代にとん挫した大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定(TTIP)の交渉再開と、国防費の対国内総生産(GDP)比率を2%に引き上げるとした北大西洋条約機構(NATO)の取り決めについては前向きな姿勢を示し、米国との関係修復に意欲を見せた。
これに対し緑の党の首相候補であるアンナレーナ・ベアボック共同党首は国防省のシンクタンク、連邦安全保障政策アカデミーのイベントで、中国とロシアの人権侵害に対してはたとえドイツの輸出に悪影響が出たとしても厳しい態度を取るべきだと明言。中国でのドイツ企業の利益に配慮するCDU/CSUよりも踏み込んだ人権外交を主張した。緑の党は経済促進に軸足を置いたメルケル首相の対中政策を以前から批判している。
ベアボック氏は同時に、超大国となった中国を全面的に排除することはできないという現実的な認識も提示。厳しい姿勢と対話を組み合わせることが重要だと述べた。
ノルドストリーム2については人権侵害を続ける強権国家ロシアを資金的に支えることになるうえ、欧州連合(EU)の温暖化防止政策にも合致しないとして明確に反対。NATOの国防費2%目標についても現在とは異なる国際状況下で取り決められたもので、「時代遅れ」としている。
TTIPには当初から反対してきた。環境や食の安全に敏感な支持層を踏まえると方針転換は考えにくい。