新型コロナワクチンの接種を迅速に進めようと、ルーマニアで変わった取り組みが行われている。1カ月の期間限定で、「ドラキュラ城」として知られるブラン城を接種会場にしているのだ。通常通り、一般見学者も受け入れているが、注射に来た人にはその「勇気と責任感」を称える接種証明書と無料の「拷問室ガイド」を提供する。
この「サービス」は地元の保健局とブラショフ県のアイデアで実現した。5月に限り毎週、金曜から日曜まで受け付ける。ブラン城管理事務所によると、外国人観光客も希望すれば注射できるという。予約の必要はない。
ルーマニアでは5月初めから、誰でも、どこでも、そして接種センターであれば予約しなくても注射が受けられるようになった。手続きを簡単にして、より多くの住民に接種を行き渡らせる目的だ。
その背景には、予防注射に慎重な住民の姿勢がある。スロバキアのシンクタンクGLOBSECによると、ルーマニアで注射を「受けない」、「受けたくない」と考える人は49%に上り、中東欧諸国ではブルガリアに次いで2番目に高い。政府は9月までに1,000万人(人口の半分強)の接種を完了する目標を掲げており、達成に向けてあらゆる手を尽くす必要があると判断したもようだ。ブラン城での取り組みのほか、ブカレストの国立図書館などの「名所・名跡」で「24時間連続・マラソン接種」イベントも開催している。
ブラン城は、ブラム・ストーカーの小説『ドラキュラ』のモデルとされるヴラン3世「串刺し公」(1431~1476)の支配したワラキア公国が所有していた。しかし、ヴラン3世が住んでいた記録はなく、「ドラキュラ城」とされたのはこじつけの感が否めない。
それでも山上にそびえる姿の美しさは格別。ドラキュラに関係なく訪れる価値は十分で、通常は多くの観光客でにぎわっている。ただ、昨年は新型コロナの影響で訪問者数が3分の1に激減。予防接種で話題となることで、人出が戻ることを期待している。