気が付けば有機農家~モルドバ

モルドバの農業が思わぬ転換を迎えている。1991年の体制転換で国家からの助成に頼れなくなった農家は、農薬や化学肥料の購入もままならず、厳しい日々を送ってきた。そして2014年。欧州連合(EU)との連合協定締結に反発したロシアが農産物禁輸の制裁を発動し、状況はさらに厳しくなった。ところが、これが有機農業への転換と欧州市場の開拓につながったというから驚きだ。

ソ連時代のモルドバ社会主義共和国は「ソ連の庭」と呼ばれていた。肥沃な黒土で育つ野菜や果物が、ソ連の需要の4分の1をまかなっていたのだ。食料政策の一環として、集団農場(コルホーズ)は電力、肥料、農薬を安く調達していた。

ところが、1991年8月の独立で事態は変わった。農場は民営化され、国家助成も打ち切られた。これを機に、農業生産高が激減した。貧困のなか、農家は肥料も農薬もほとんど使わずに作物を育てることになった。しかし、これが長年続いたことで畑の「地力」が回復し、有機作物に準じるほど品質が高まった。実入りの良さや将来性、国家助成の存在といった実際的な利益とともに、環境意識の高まりもあって、次第に正式な認定を受けて名実ともの「有機農家」になるところも現れた。その数は160軒まで増えている。

もう一つの変化は、ロシアへの農産物輸出が難しくなったことだった。モルドバ東部トランス二ストリア(沿ドニエストル)地域の将来をめぐる対立でロシアが2006年に制裁を発動し、特産物のワインが輸出できなくなった。続いて14年のEUとの連合協定調印を機に禁輸措置が農産物全体に拡大したことで、モルドバ農家は最も大きな取引先であるロシア市場を失った。

必要に迫られて新顧客を模索した結果、ポーランドやルーマニア、チェコ、イタリアといったEU加盟国への輸出が始まった。EUは域外からの農産物に輸入制限を設けているが、それでも人口5億人を擁し、購買力がロシアを中心とするユーラシア経済連合(EEU)の5倍に及ぶEUは今後もモルドバの重要な取引先であり続けるだろう。

課題は生産量の拡大や、収穫の安定性向上だ。モルドバが再び農業国としての本領を発揮できるよう、長期的な国外からの投資や国家助成が望まれる。

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